チームで年間500万円

 Catapult社はスポーツチーム向けに、GPSデバイスを買い取り方式とレンタル方式で提供している。デバイスは複数あるが、GPS以外のGNSSにも対応した主力の「OptimEye S5」の場合、価格は1台40万円で、ソフトウエアの使用ライセンスが付属する。

 S5をレンタルする場合、使用料は例えば3年契約で1年間当たり1台15万円程度という。サッカーでは1チーム当たり30台が必要になるので、年間500万円程度の費用がかかる。なお、Catapult社が買収したGPSports社のデバイスの場合は、S5より機能が劣る(測位はGPSのみで、地磁気センサーを内蔵しない)ため、年間300万円程度に下がる。

 この価格だけを聞くと、1台数万円で販売されている一般のスポーツ愛好家向けGPSデバイスを知っている読者の中には、“高い”と感じる人もいるだろう。しかし、そこには理由がある。プロチーム向けの製品だけに、取得できるデータは2000項目とソフトウエアの機能は豊富で、さらにサポート体制も手厚い。

 創業者が研究者ということもあり、社員にはスポーツ科学の専門家が多く、アジア・太平洋地域担当だけで4人を擁する。またスポーツチームでコンディション管理の経験がある社員も多く、実際にチームの要望を聞いてアドバイスをしたりする。例えば、GPSデバイスの導入当初はチームに評価基準がないため、コンサルティングを通じてそれぞれのチームの評価基準作りやデータの比較の仕方などをサポートする。

 結局、この価格に対する評価は、チームがどこに優先度を置くかによって変わってくる。「年間500万円という価格は(サッカーで)新卒選手を1人雇うのと同程度で、実際ここにお金をかけるチームは多い。一方で、目先の勝利ではなく長期的な視点を持ってシステムにお金をかけてケガのリスクを減らすことを重視するチームも多い。そういうチームにとっては、費用対効果は高い」(斎藤氏)。資金に余裕があるチームを中心に世界で採用が拡大している事実は、ケガに悩んでいるチームが多い証左とも言える。

映像解析もワンストップで

 Catapult社はプロチーム向けGPSデバイスでの成功を武器に、“勝負のグラウンド”を広げようとしている。

 「我々の目標は、GPSデバイスによるトラッキングと映像の解析サービスをワンストップで提供すること」(斎藤氏)。プレーの映像とGPSデバイスが取得したデータを一つのシステム上で見ることができれば「どういうプレーにおいて、どの程度のスピードが出ていたか」など、より深いプレー分析とコンディション管理が可能になる。

 2016年に買収したXOS社は、映像からトラッキングデータやタグ情報(サッカーのゴールなど特定のプレー情報)を取得する技術を持ち、既に米国でアメリカンフットボールなどの競技で使われている。こうした技術資産の取得を通じ、スポーツセンシングに関わるさまざまなデータを統合したシステムの構築を目指している。

 GPSデバイスが対象とする競技も増やす。デバイスのハードウエアはそのままに、アルゴリズムをファームウエアでアップデートすることで「野球」の世界に進出する。内蔵する加速度/角速度センサーで投球やスイング動作を認識。投球数、スイング数やそれらの強度を計測し、選手のコンディションを管理する。プロ野球では、投球や打球のデータを取得するシステムの導入が進んでいるが、選手の疲労に関するデータのセンシングはまだ本格化していない。開発したアルゴリズムは米MLBのチームと共同開発したもので、2017年内には日米のプロ野球チームに紹介する予定だ。

 さらに、「サブエリート」と呼ばれる大学や高校、アマチュアのトップレベルのアスリートに向けた市場開拓に挑む。買収したPLAYERTEK社が販売するGPSデバイスを活用する。同社のデバイスは、GPSのみに対応で1台当たり3万円程度と安い。もちろん、Catapult社の製品のような手厚いサポートはないが、これまでプロチームで培った知見を競合との差異化に生かす考えだ。国内では2017年末の販売開始を予定している。