今回のSSACへの出展はなかったが、大手スポーツ用品メーカーもこの問題に取り組んでいる。例えばドイツadidas(アディダス)グループ傘下のリーボック社は、「CHECKLIGHT」と呼ばれるセンサー内蔵のキャップ型帽子を販売している。脳震盪について診断するツールではないが、これをヘルメットの下にかぶることで、頭部に大きな衝撃を受けた時に外部から見てそれが分かるようにライトが点灯する。衝撃による選手への影響の拡大を防げる可能性がある。
10歳以下の子供はヘディング禁止
こうした取り組みが進められているのは、アメリカンフットボールに限らない。例えば、サッカーでは2015年、米サッカー協会が医事委員会の勧告に基づき、10歳以下の子供はヘディングを禁止、11歳~13歳の子供にはヘディング回数を制限する規定を発表している。なお、日本サッカー協会や欧州の各協会では、医事委員会等が本件について子細に検討をした結果、現状では同様の対応を取っていない。
2015年、米プロ野球のMLBで活躍する青木宣親選手が試合中に死球を受け、長期間にわたって脳震盪の影響に苦しんだように、「コリジョン(衝突型)スポーツ」と呼ばれるスポーツ以外の競技にとっても、この問題は決して対岸の火事ではない。
今後、さまざまなスポーツにおいて、センシングデバイスの小型化・高性能化に伴って脳震盪予防への取り組みは進化していくだろう。日本にもその影響は間違いなく波及するに違いない。
データなくして計画なし
もっとも、解決に向けた道のりは長そうだ。今回、SSACで開かれた“Can You Really Predict Athletic Injury and Performance?”(スポーツにおける怪我とパフォーマンスは本当に予測可能か?)と題したセッションの後に話を聞いたある大学教授は、「意味のある予測モデルを構築するまでには忍耐が必要」「相当量のデータを蓄積して仮説検証を繰り返してもどうしても3~5年はかかる」としていた。
障害予防への取り組みを始めれば、すぐに精度の高い予測ができるわけではない。最初はとにかく、データを蓄積しなければならない。選手のコンディションのデータ、練習のデータ、そして(望ましいものではないが)怪我のデータも必須。優れた予測モデルを構築するためには、データの質と量、そして労力と時間が必要なのだ。
筆者が話をしたその大学教授は ”Zero record equals zero plan”(データなくして計画なし)という言い方をしていたが、まさにその通りだ。データをためている段階で性急に成果を求めてしまい、目に見えた成果が得られないからとデータの取得をやめてしまうケースを時々見聞きするが、非常にもったいないことだ。
米国では既にデータを蓄積するフェーズを経て、情報量は一定のしきい値を超えている。仮説検証を経た優良な知見が続々と得られ、それらが共有されつつある。日本でも一刻も早く、データ蓄積と仮説検証の坂道を駆け上がらなければならないと痛感した。