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スポーツIT革命の衝撃

楽天が本格導入、プロ選手はVRに何を求めたか

2017/05/15 05:00

内田 泰=日経BP社デジタル編集部

 北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手の代名詞となった「時速165kmの剛速球」。このボールは、大谷選手の手を離れてからホームベースに到達するまでに0.4秒もかからない。

 並外れた対応力を持つプロ野球選手であっても、ほとんど見たことがないこのレベルの剛速球を痛打するのは、至難の業だ。まして、初見であったらチャンスは非常に少ない。

 しかし、先端のIT(情報技術)がこの状況を変えようとしている。VR(仮想現実)技術を用いたトレーニングシステムの本格的な実用化だ。実際には見たことがないのに、見たことがあるかのイメージを持って打席に立てる。

 東北楽天ゴールデンイーグルスを運営する楽天野球団は2017年シーズンから、NTTデータが開発したプロ野球選手向けのVRトレーニングシステムの本格利用を開始した。試合で対戦する投手の投球を、VR用HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着した打者が仮想体験できる。対戦前に球速や球筋、変化球のキレなどを打席からの目線でイメージとしてインプットしておくことで、実戦でのパフォーマンスを高めるのが狙いだ。

VRトレーニングシステムの視聴イメージ。投手は松井裕樹選手。このイメージのように、投球の軌道を表示することも可能(図:NTTデータ)
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 「プロの世界ではもちろん、映像チェックはしている。相手投手のフォームを見たいのであれば、映像で十分だが、映像はバックネット裏から撮影されているので、打席からの目線とは異なる。VRでやる意味はそこにある」(NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部ライフデジタル事業部eライフ統括部eライフ営業担当課長代理の馬庭亮太氏)。

 楽天野球団は2016年シーズンに同システムを実験的に導入。1軍のメンバーはコーチも含めて全員が体感し、そこで要望を吸い上げて改良を重ねた。その結果、プロ野球選手が実戦に役立てることが可能なシステムであると判断し、本格導入に踏み切った。

 1軍では昨シーズンから今江年晶選手や銀次選手が同システムを活用しているが、今シーズンからはより多くの選手が利用している。このほか、2軍選手の練習での活用も検討している。1軍と2軍の投手では、スキルに大きな差がある。2軍選手に1軍の投手の球をVRで“体感”させることで、1軍に昇格した際に対応する時間を短縮する効果が期待できる。

今江年晶選手がトレーニングに活用している様子。HMD「Oculus Rift」を装着している(写真:NTTデータ)
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楽天が投球データを提供

 「『ゼロ打席目』の感覚が味わえる」――。同システムを積極的に活用する今江選手がこう評するように、プロ野球選手向けのシステムは一般消費者向けのVRゲームなどとは異なり、試合での打席と同じように見える“リアリティー”が強く求められる。

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