それを実現するポイントになった技術が2つある。1つは、野球場の空間を3次元で再現したCG(コンピューターグラフィックス)映像に、投球の軌跡を正確な位置に重ねる技術だ。

VRで正確に投球を再現するため、NTTメディアインテリジェンス研究所が開発した「スポーツ一人称視点合成技術」を活用した(図:NTTデータ)
VRで正確に投球を再現するため、NTTメディアインテリジェンス研究所が開発した「スポーツ一人称視点合成技術」を活用した(図:NTTデータ)
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 東北楽天ゴールデンイーグルスが本拠地とするスタジアム「Koboパーク宮城」には、ボールの軌道をトラッキングする「Trackman(トラックマン)」(デンマークTrackman社)というシステムが導入されている。Trackmanは、軍事用のドップラーレーダーを応用した追跡技術を採用しており、ボールの位置(3次元座標)、速度、回転速度などの情報を取得する。

 楽天野球団はTrackmanで全主催試合の全球データを蓄積している。この中から対戦する投手のデータをNTTデータに提供し、同社がボールの位置をCG空間に正確に重ねる。

 NTTデータのVRトレーニングシステムは、米Facebook社傘下の米Oculus社が販売するHMD「Oculus Rift」を使う。Oculus Riftは内蔵するセンサーで頭の動きを検出するほか、付属の外部カメラを使ってHMDを装着した人の動きを検出する機能を持つ。

 これを利用して、個々の選手ごとで異なる打席の立ち位置や、スイング時の頭部位置の変化に応じて、打席から見た正確なボールの軌道を再現している。

 リアリティーを増すためのもう1つの技術は、CGに実際の投手の映像を重ねる際、投手が持つボールを映像から消すことである。この処理をしないと、打者からはボールが2重に見えてしまい、“イメージ作り”の妨げになるためだ。

毎回VRコンテンツを更新

 VRトレーニングシステムをプロ野球の現場で日々活用するためには、「運用体制」も重要なポイントになる。NTTデータでは、予告先発などの情報から次のシリーズで対戦する相手投手の直近のデータを楽天野球団から入手し、VRコンテンツを作成して提供している。

 「VR用の映像を作るだけなら他社でも簡単にできる。投球を正確に再現したVRコンテンツの作成と運用のノウハウが差異化のポイント」と馬庭氏は言う。同社は楽天野球団とはハード・ソフトのシステム販売ではなく、サービス利用契約を結んでいる。

 実はVRを使ったトレーニングシステムを導入しているプロ野球団は他にもある。例えば、横浜DeNAベイスターズは2017年3月、米ベンチャーのEON Sports社が開発した「iCube(アイキューブ)」を導入したと発表している。米MLBのタンパベイ・レイズなどが2016年に導入したシステムで、日本での採用は初めて。DeNAベイスターズは横浜スタジアムにiCube専用のトレーニングルームを新設した。

 iCubeも球団からTrackmanのデータ提供を受けてCGを作成する点は同じだが、システムの仕組みは異なる。iCubeでは専用ルームに大型スクリーンを設置し、プロジェクターでCG映像を投影する。選手は頭の動きをトラッキングする機能がついたHMDを装着して打席に立つことで、スクリーン上の投手の球を試合と同様の視点で見ることができる。