「我々はMLB球団へのアドバイスを通じて、2015年の一年間に主に肘とハムストリングの怪我99件の発生を未然に防ぐことに成功した」
今回のSSACで登壇したSPARTA Science社というシリコンバレー企業のCEO(最高経営責任者)は、こう胸を張った。未然に防ぐことができた怪我の件数をどのようにカウントするのかについては議論のあるところだが、彼の話しぶりからはMLB球団との間に“何らかの基準”に対する合意があることがうかがえた。
障害予防(Injury Prevention)――。SSACで非常に印象的だったことのひとつが、これに対する参加者の意識の高さだ。私が今回参加した14セッションのうち、7セッションで障害予防についての言及があった。選手のコンディション管理領域の研究者や起業家だけでなく、さまざまなウエアラブルデバイスメーカーも異口同音に「戦術面やエンタテイメントと並んで障害予防や選手寿命(Athlete Longevity)への貢献は、我々が提供する大きな価値となっている」と語っていた。
ケガによる損失、MLBで700億円
背景には、選手の怪我による経済的損失という無視できない問題がある。米国のメジャースポーツでは選手の年俸の上昇に伴い、ひとたびスター選手に怪我が発生した時の経済的打撃が大きくなっている。2013年度の怪我による経済的損失は、MLBでは約6億6500ドル(約700億円)、NBAでは約3億5800ドル(約400億円)にも上る。莫大な金額である。アスリートの怪我による影響は、チームの成績にも、興行面にも直結する。そして何よりも怪我がなければ長く活躍できたはずの選手寿命を縮めてしまう。
かつては米国においても、「アスリートにとって怪我はつきものであり、一定の割合で発生することは避けられない」とする考え方が支配的だった。しかし、今や「多くの怪我は避けることができる」という考え方へと変わってきているという。経験則や目視だけでは分からないような怪我の原因を、「ビッグデータ解析」を通じて何とかして見つけ出してやる、という執念のようなものが伝わってきた。