日本市場の5.5兆円(2012年)に対して60兆円ともいわれる米国のスポーツ産業市場。「2025年に15兆円」という目標を掲げて産業化に向けてようやく着火した日本市場を尻目に、今なお急成長を続ける米スポーツ産業の熱気とエコシステムの厚みを、肌で感じられるイベントがある。マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院(スローンスクール)の主催で年に1度開催される、スポーツアナリティクス関連のカンファレンス「MIT Sloan Sports Analytics Conference (SSAC)」だ。2017年3月4~5日に、米国ボストンで開催されたイベントの模様を、ユーフォリア代表取締役の橋口寛氏と宮田誠氏に、複数回にわたって異なる視点から報告してもらう。今回は、MIT SSACの全体像をお伝えする。
MIT SSACのホームページ(図:MIT SLOAN)
MIT SSACのホームページ(図:MIT SLOAN)
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 今年で11回目を迎えたMIT SSACは、“バックベイ”と呼ばれる地域にあるコンベンションセンター「John B. Hynes Veterans Memorial Convention Center」で開催された。近隣にバークリー音楽院などがあり、ボストンレッドソックスの本拠地である「フェンウェイパーク」へも歩いて行ける。まさにボストンの中心地ともいえる場所だ。

 昨年開催された「Boston Convention & Exhibition Center」から会場が変更されたが、カンファレンス会場は参加者が放つ高い熱量に満ちていた。

 MIT SSAC 2017には、3500人以上の参加者が集まった。2007年にわずか175人が参加して始まった同イベントが、今では“スポーツビジネスの祭典”と呼ばれる理由をこの数字が端的に示している。

 受付時に配布されるパッケージの中に含まれる全参加者リストを見ると、非常に多様なバックグラウンドを持つ参加者が集っていることが分かる。アナリストはもちろん、スポーツリーグ・チーム関係者、大学・研究機関の研究者、カレッジスポーツ関係者、学生、指導者・ストレングスコーチ・アスレチックトレーナーなどの専門家、大企業やベンチャー企業、投資家など。米国の4大メジャースポーツからもほとんどのチームから参加している。

基調講演の様子(写真:Yuto INOMATA)
基調講演の様子(写真:Yuto INOMATA)
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スポーツ業界の「リクルーティングの場」

 コンベンションセンターには、2000人以上入りそうなメイン会場から100人強の小さな会場まで大小8つの会場があり、同時並行的に8つのトラックが進行する。パネルディスカッションと「Competitive Advantage」と呼ばれる講演・プレゼンテーションだけでも全部で約80のセッションがあり、全てを聴講するのはとても不可能だ。

基調講演が開催されるメイン会場の収容力は2000人以上(写真:Yuto INOMATA)
基調講演が開催されるメイン会場の収容力は2000人以上(写真:Yuto INOMATA)
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 誰もがタイムテーブルと、スマートフォン向けのカンファレンス専用アプリとをにらめっこしながら、わずか10~15分の休憩時間の間に会場から会場へと移動していく。ランチ休憩ですら15分間しかなく、皆ランチボックスを抱えて次の会場へと向かい、セッションに参加しながら食事をする。セッションの合間の時間帯、通路はまるでラッシュアワーのような状態だ。

スポンサー企業がブースを並べて製品やサービスのデモを行っているメイン通路(写真:Yuto INOMATA)
スポンサー企業がブースを並べて製品やサービスのデモを行っているメイン通路(写真:Yuto INOMATA)
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セッションの合間の時間帯には、通路はまるでラッシュアワーのような状態になる(写真:Yuto INOMATA)
セッションの合間の時間帯には、通路はまるでラッシュアワーのような状態になる(写真:Yuto INOMATA)
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 MIT SSACには、スポーツ業界で職を得たい学生と、優秀な人材を採用したいチームや企業とのマッチングの場所としての機能もある。「リクルーティングの場」でもあるのだ。職を求める学生たちにとっては、文字通り人生を変える2日間にもなり得るのだから、会場に充満するエネルギーが高いのもうなずける。