田中ウルヴェ京(たなか・うるう゛ぇ・みやこ)。日本スポーツ心理学会認定メンタルトレーニング上級指導士。IOC認定アスリートキャリアトレーナー。1988年にソウル五輪シンクロ・デュエットで銅メダル獲得。10年間の日米仏の代表チームコーチ業とともに、6年半の米国大学院留学で修士取得。様々な大学で客員教授として教鞭をとる傍ら、慶應義塾大学大学院SDM研究科博士課程に在学中。アスリートからビジネスパーソンなど広く一般にメンタルトレーニングを指導するとともに報道番組でレギュラーコメンテーターを務める
田中ウルヴェ京(たなか・うるう゛ぇ・みやこ)。日本スポーツ心理学会認定メンタルトレーニング上級指導士。IOC認定アスリートキャリアトレーナー。1988年にソウル五輪シンクロ・デュエットで銅メダル獲得。10年間の日米仏の代表チームコーチ業とともに、6年半の米国大学院留学で修士取得。様々な大学で客員教授として教鞭をとる傍ら、慶應義塾大学大学院SDM研究科博士課程に在学中。アスリートからビジネスパーソンなど広く一般にメンタルトレーニングを指導するとともに報道番組でレギュラーコメンテーターを務める

田中 AIとの共存という意味では、それこそ人間の「立ち位置確認」が重要です。存在意義とでも、言えばいいでしょうか。AIとの共存時代には人間が「人間らしい、自分らしい」と感じる能力が必要になってきます。その点では、心身相関、つまり「身体を動かすことによる自己認識」が重要な課題になってくる。そうしたディスカッションが、実存心理学などの分野では盛んになり始めています。

「Integration」の重要性が増す

久木留 スポーツ界では一時期、「Intelligence(情報/機密情報)」という言葉がキーワードになりました。その後、「Integrity(公正性)」がキーワードになりました。現在、私が着目しているのは「Integration(統合)」です。要は、いろんなものを組み合わせてどう使いこなすかが重要、という意味です。

 2015年にオーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)の幹部たちが来日しました。スポーツ科学、スポーツコーチング、マネジメント、全体のトップなど8人の一行でした。彼らは、自分たちが世界のトレンドから遅れているという危機感を持っており、最新のトレンドを探すのが目的でした。そしてスポーツ科学担当の人が日本の担当者に、「Integrationリサーチとして日本では何をやっているのか」と聞いたんです。残念ながら日本の担当者は答えられなかったのですが、私はAISの人たちの問題意識がそこにあることに気づきました。

田中 でも、日本人に対して「Integration」という問いかけは言葉の定義として難しいのではないですか。たとえばIntegrityもそうですが、日本語に訳す段階で、英語での表現とは質の違う理解になることが多いと感じます。Integrationについて答えられないというのは、どういう意味においてでしょうか。

久木留 「Integrationリサーチ」について質問されたときに答えを返せないのは、研究にオリジナリティーがないことを示しています。例えば、日本にはスポーツ栄養学を研究していたら、そこに終始してしまう人が多い。アスリートのパフォーマンスを高めるには、栄養だけでなく、フィジカルやメンタルも鍛えないといけないのに…。

神武 “バズワード”のAIとしては鉄腕アトム的なものが思い浮かびますが、AIは多様なものがIntegrationされて生まれる知恵なので、久木留さんがご指摘のように分野融合が不可欠だと思います。まずはシステムとして、いろんな要素を洗い出して統合する必要があるでしょう。

 要素の組み合わせのパターンは無限にあり、そこから最も良いものを選び出すのは人間よりAIがはるかに得意です。ただ、どういうパターンが良いかという「メタ情報」は人間が決めなくてはなりません。そこに人間とAIの共存があり、お互いが知恵を出すと強力な「スポーツAI」を作れると思います。

スポーツ×AIの未来について語った3者。左から田中氏、久木留氏、神武氏
スポーツ×AIの未来について語った3者。左から田中氏、久木留氏、神武氏