―― なぜ、IBM社はスポーツビジネスに積極的に関与しているのですか。
岡田 「スポーツを文化として醸成したい」という基本スタンスを持っているからです。ウィンブルドン選手権へのスポンサーシップは24年程度続けており、それがグランドスラム(テニスの4大大会)に広がっています。マスターズとも20年以上の付き合いがあります。さらにIBM社はテクノロジーカンパニーなので、協賛にとどまらず、観戦をより楽しくしたり、選手やチームを強化したりするためのテクノロジーを同時に提供しています。
―― IBM社には「IBM Sports」という専門組織があるのですか。
岡田 いえ、専門組織があるわけではなく、イベントに応じてさまざまな組織が連携して活動します。顧客体験を作っているメインの部隊は「Interactive Experience(IX)」という世界で1万人規模の組織です。ここが顧客体験のデザインを実施し、クラウドやアナリティクスなどのチームが参加してテクノロジーを実装します。
例えば、テニスのグランドスラムで提供している「SlamTracker(スラムトラッカー)」というライブのスコアボードがあります。主体はIXのチームですが、アナリティクスのチームが連携して運営しています。
SlamTrackerにはグランドスラムの過去のデータが集約されており、スコアがライブで表示されるだけでなく、試合のデータや分析、さらに専門アナリストが特定の選手が勝つために必要な要素を指摘したりします。SlamTrackerにはグローバルで統一のフォーマットがあり、それをインフラとして世界各地で使っています。Watsonで選手の性格分析
―― IBM Sportsのポリシーはどのようなものですか。
岡田 柱が3つあります。1.ファンのエンゲージメントをどう作り上げるか、2.チームのパフォーマンスをどう強化するか、3.スタジアムなどの会場(ベニュー)をどのように最適化するか――。これらを“三位一体”でお手伝いします。
―― ここ数年、海外ではコグニティブコンピューティング技術のWatson*1を活用したIBM Sportsの事例が増えていますね。
岡田 一例として、IBM社が2016年のウィンブルドン選手権や2017年1月の全豪オープンテニスで運営した「Cognitive Social Command Center」があります。ここでは、大会期間中にSNSなどインターネット上でファンが発している言葉や熱気をWatsonがクロール・解析し、それを同センターに通知。会場のチケット売り場のサイネージに、販促につながる言葉を表示したりする取り組みをしました。さらにインターネット上のファンが欲しているコンテンツを配信しました。
例えば、SNS上で「ロジャー・フェデラー(Rodger Federer)選手がすごい」「彼のプレーを見たい」といった多くの発言があったら、Watsonが「今、世の中でフェデラー選手が熱い!」と判断。これを受けて、会場のチケットセンターに置かれたサイネージには「Go Rodger!」と表示し、観客に「明日フェデラー選手が登場するので来てね」と再訪を促したりすることができます。
また、SNS上に「かつてフェデラー選手がウィンブルドンを5連覇した時の映像を見たい」などという書き込みがあったら、その内容をWatsonが理解して通知。グローバルのWebサイトを管轄しているチームが、当該の映像を引っ張ってきて一斉に配信する、ということをやったりしています。