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スポーツIT革命の衝撃

IBM、日本でもワトソンで「スポーツ新体験」

2017/04/14 05:00

内田 泰=日経BP社デジタル編集部

 テニスのウィンブルドン選手権やゴルフのマスターズ・トーナメントなど、スポーツのビッグイベントで「IBM」のロゴを目にしたことがある人は多いだろう。米IBM社は20年以上の長きにわたってスポーツイベントに協賛するだけでなく、「IBM Sports」の名の下に、大会を支えるテクノロジーを提供してきた。そんな同社が日本でも、人工知能(AI)技術を使うコグニティブ(認知型)コンピューティング「Watson(ワトソン)」を活用したスポーツビジネスを展開しようとしている。日本アイ・ビー・エム GBS事業本部コグニティブビジネス推進室コグニティブエクスペリエンスプロデューサーの岡田明氏に、IBM Sportsの世界での動向や事例、日本での取り組みについて聞いた。

―― なぜ、IBM社はスポーツビジネスに積極的に関与しているのですか。

日本アイ・ビー・エム GBS事業本部コグニティブビジネス推進室 コグニティブエクスペリエンスプロデューサーの岡田明氏
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岡田 「スポーツを文化として醸成したい」という基本スタンスを持っているからです。ウィンブルドン選手権へのスポンサーシップは24年程度続けており、それがグランドスラム(テニスの4大大会)に広がっています。マスターズとも20年以上の付き合いがあります。さらにIBM社はテクノロジーカンパニーなので、協賛にとどまらず、観戦をより楽しくしたり、選手やチームを強化したりするためのテクノロジーを同時に提供しています。

―― IBM社には「IBM Sports」という専門組織があるのですか。

岡田 いえ、専門組織があるわけではなく、イベントに応じてさまざまな組織が連携して活動します。顧客体験を作っているメインの部隊は「Interactive Experience(IX)」という世界で1万人規模の組織です。ここが顧客体験のデザインを実施し、クラウドやアナリティクスなどのチームが参加してテクノロジーを実装します。

 例えば、テニスのグランドスラムで提供している「SlamTracker(スラムトラッカー)」というライブのスコアボードがあります。主体はIXのチームですが、アナリティクスのチームが連携して運営しています。

リアルタイムのスコアボード「SlamTracker」。2017年1月の全豪オープンテニス男子決勝でのもの(図:IBM社)
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 SlamTrackerにはグランドスラムの過去のデータが集約されており、スコアがライブで表示されるだけでなく、試合のデータや分析、さらに専門アナリストが特定の選手が勝つために必要な要素を指摘したりします。SlamTrackerにはグローバルで統一のフォーマットがあり、それをインフラとして世界各地で使っています。

Watsonで選手の性格分析

―― IBM Sportsのポリシーはどのようなものですか。

岡田 柱が3つあります。1.ファンのエンゲージメントをどう作り上げるか、2.チームのパフォーマンスをどう強化するか、3.スタジアムなどの会場(ベニュー)をどのように最適化するか――。これらを“三位一体”でお手伝いします。

―― ここ数年、海外ではコグニティブコンピューティング技術のWatson*1を活用したIBM Sportsの事例が増えていますね。

岡田 一例として、IBM社が2016年のウィンブルドン選手権や2017年1月の全豪オープンテニスで運営した「Cognitive Social Command Center」があります。ここでは、大会期間中にSNSなどインターネット上でファンが発している言葉や熱気をWatsonがクロール・解析し、それを同センターに通知。会場のチケット売り場のサイネージに、販促につながる言葉を表示したりする取り組みをしました。さらにインターネット上のファンが欲しているコンテンツを配信しました。

*1 コグニティブコンピューティングは、自然言語などを理解・学習して人間の意思決定を支援するシステム。WatsonはAIの技術を使っているものの、IBM社ではAIとコグニティブコンピューティングを明確に区別している。
2016年のウィンブルドン選手権の会場に設置された「Cognitive Social Command Center」(写真:IBM社)
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 例えば、SNS上で「ロジャー・フェデラー(Rodger Federer)選手がすごい」「彼のプレーを見たい」といった多くの発言があったら、Watsonが「今、世の中でフェデラー選手が熱い!」と判断。これを受けて、会場のチケットセンターに置かれたサイネージには「Go Rodger!」と表示し、観客に「明日フェデラー選手が登場するので来てね」と再訪を促したりすることができます。

 また、SNS上に「かつてフェデラー選手がウィンブルドンを5連覇した時の映像を見たい」などという書き込みがあったら、その内容をWatsonが理解して通知。グローバルのWebサイトを管轄しているチームが、当該の映像を引っ張ってきて一斉に配信する、ということをやったりしています。

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