もう1つの先進事例が、米プロバスケットボールリーグ(NBA)に所属するトロント・ラプターズ(Raptors)です。同チームは、Watsonも活用するスポーツチーム分析ツール「Sports Insights Central」を2016年2月に導入しました。同ツールは、試合や練習での選手やチームのパフォーマンスに関するデータ、医療・健康関連のデータなど様々なデータを一元管理し、多様なシミュレーションを可能にします。同チームのコントロール室には、タッチ式のスクリーンが多数導入されていて、同ツールを用いて簡単にシミュレーションができます。

トロント・ラプターズが導入した「Sports Insights Central」を使っている様子。タッチ式スクリーンを操作することで、チーム力、選手力、選手の性格、リーグ、トレードなど様々な分析ができる(写真:IBM社)
トロント・ラプターズが導入した「Sports Insights Central」を使っている様子。タッチ式スクリーンを操作することで、チーム力、選手力、選手の性格、リーグ、トレードなど様々な分析ができる(写真:IBM社)
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 Sports Insights Centralには、「Personality Insight」というWatsonの性格分析APIが含まれています。心理学など学術的に権威があるデータを使ってWatsonが選手の性格を分析します。Raptorsはこれをチーム強化に活用しているほか、遠征の際のチーム編成に使ったりしているそうです。Personality Insightを使えば、ライバルチームの選手のSNSへの書き込みから性格を分析することもできます。

 一般にアナリティクスでは、膨大なデータから人間が“解”を導き出しますが、Watsonはその上を行きます。アナリストがどう判断するかの知見をWatsonに教え込ませることで、一歩先の活用ができます。

「日本モデルを作りたい」

―― 日本でのIBM Sportsの展開について教えてください。

岡田 日本ではWatsonをキーにしたビジネス展開、そして顧客体験を設計していきます。

 ただ、この1年間活動してきて、日本のスポーツ市場は間違いなく成長するとは思うものの、欧米と比べてまだ未成熟と感じています。欧米のメジャースポーツのように各クラブが持つ予算規模が大きくないため、Watsonを使ったソリューションを一気に導入するのは難しいでしょう。「日本モデル」を作りたいと思っています。

 日本でのビジネス展開に当たって、私には2つの方針があります。1つは、欧米での事例を参考に、クラブやスポーツ団体の予算範囲内で“いいサイクル”を生み出すお手伝いをしていきます。

 もう1つは、クラブや団体からお金をいただくのではなくて、例えば地域にある企業などと連携することで、スポーツビジネスのエコシステムを形成することです。

 WatsonなどIBMが保有するテクノロジーを使って、イノベーションの種を日本のスポーツ市場にまいて成長に貢献したいのです。

―― 具体的には、日本ではどの領域から展開していきますか。

岡田 日本のスポーツ産業成長の鍵と言われる「スタジアム・アリーナ」は、我々にとっても注力領域です。今後、日本でもスタジアム・アリーナはどんどん建設されますが、ここでIBM社が何ができるかが重要だと思っています。

 米国では、2017年シーズンからプロアメリカンフットボール(NFL)のアトランタ・ファルコンズが本拠地とする新スタジアムの「メルセデス・ベンツ・スタジアム」で、IBM社はテクノロジーパートナーを務めました。Wi-FiなどIT(情報技術)インフラだけでなく、駐車場から座席への誘導など動線設計を含めて顧客体験を設計しました。

 我々は「IBM SPORTS 360/365」と呼んでいますが、360度(ゲームの前・当日・終了後)、そして365日、顧客と向き合って体験を提供するためのフォーマットを持っています。

「IBM SPORTS 360/365」の概念図(図:IBM社)
「IBM SPORTS 360/365」の概念図(図:IBM社)
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 日本でもスタジアムのテクノロジーパートナーとなるのが、私の第1弾の仕事です。今はそれに向けて種まきをしている段階です。