1チーム15人、計30人もの選手がフィールドを激しく動き回り、体をぶつけ合う。しかも、すぐに密集ができて選手の姿勢もさまざま――。画像認識の対象として難易度が高いラグビーをあえて題材にし、自社技術を鍛えている企業がある。ラグビーのトップリーグに加盟するチームを抱える東芝だ。
同社はこれまで培ってきた画像認識および音声認識に、人工知能(AI)の技術の1つであるディープラーニング(深層学習)を組み合わせた、ラグビーのプレー分析システムを開発。2016年秋から、自社のラグビーチーム「東芝ブレイブルーパス」で実証実験を行っている。
2017年8月に始まる今シーズンからチームに試験導入し、2018年シーズンに本格導入する考えだ*1。2019年9月~11月に日本で開催されるラグビーワールドカップでの採用を目指す。さらに、ラグビーで鍛えたこの技術を製造業など他産業へ展開する将来構想を描いている。
開発した分析システムは、ラグビーチームのアナリストが試合などの映像を解析する際、手作業で行っている「タグ付け」などを自動化して負荷を軽減するもの。戦略分析のためのシステムではなく、その“前段”の自動化だ。開発は、スポーツの映像解析で多くの実績を持つ、慶応義塾大学理工学部の青木研究室と共同で行っている。現在、特許出願中という。
ラグビーに限らず、トップレベルのスポーツチームでは昨今、映像分析が必須となっている。練習や試合の映像を分析し、チームの戦略構築や個々の選手のパフォーマンス強化に活用している。
その分析を担うのがアナリストだが、現実には分析の前段階である、「手作業での『タグ付け』に相当な時間を費やしている」(東芝インダストリアルICTソリューション社商品統括部プロダクト&サービスマーケティング部参事の籾井啓輔氏)。開発したシステムを導入することによって、アナリストは分析という、より付加価値が高い仕事に専念できるようになる。
ディープラーニングでシーン識別
下の図は、東芝が開発した分析システムのデモ画面だ。左が解析対象の映像で、右上がフィールドを見下ろした平面図に選手やボールの動きをマッピングしたもの。右下が、「スクラム」「ラック」などシーンごとに分割された映像だ。
選手とボールの位置、さらにどのチームの選手かは、画像認識で判別する。通常、映像はスタンドから撮影するので斜めの画角になっているが、グラウンドの4辺の位置を認識し、選手とボールの位置を2次元座標上の位置に変換。平面図にマッピングする。これによって選手やボールの移動を追跡できるほか、プレー中の位置取りなどが検証可能になる。