世紀の番狂わせ――。2015年9月19日、ラグビーワールドカップ(W杯)2015 イングランド大会における日本代表の南アフリカ代表戦の勝利は世界をあっと驚かせた。第2回大会のジンバブエ戦のW杯初勝利以降、24年間勝ったことがなかった日本が優勝候補を破った主な要因の一つは、「世界一のデータ分析」である。その“陰の立役者”とも言えるのが、エディージャパンのアナリストとして分析を担当した中島正太氏である。同氏が「スポーツアナリティクスジャパン2015」(主催:日本スポーツアナリスト協会、2015年12月19日開催)で明らかにした、データ分析の中身を談話形式で2回に渡ってお伝えする。
元ラグビー日本代表 チーム分析担当(アナリスト)の中島正太氏
元ラグビー日本代表 チーム分析担当(アナリスト)の中島正太氏

 なぜ、南アフリカ代表に勝てたのか。私は準備の差にあると思う。日本代表は常に「Beat the Boks」(南アフリカ代表を負かそう、Boksは同チームの愛称Springboksの略)を合言葉に掲げていたのに対し、南アフリカ代表の目標は日本戦のはるか先の優勝にあった。

 実際、対戦相手のすべての選手を分析していた日本代表に対し、日本を脅威に感じていたのは日本でプレーしている南アフリカ選手のみ。こうした状況の中で、双方に準備の差が生まれた。

試合の3年前から情報収集開始

 2012年4月1日、エディー・ジョーンズ氏(現イングランド代表ヘッドコーチ)をヘッドコーチとする「エディージャパン」が誕生した。エディーが掲げた最大の目標は、それまで最高13位だった世界ランキングを10位以内に引き上げることだった。

 その目標は2014年6月に達成し、次の目標としてW杯でのベスト8が設定された。エディーはこれらを実現するために、ラグビーのスタイルとして日本独自の「ジャパンウェイ(Japan Way)」を掲げた。我々スタッフに対しては、「世界で最も準備されたチーム」を目指すことが強く指示された。フィジカルでもスピードでも一足飛びには世界一になれない。ならば、準備で世界一を目指そうと…。

 エディージャパンの組織は、ヘッドコーチであるエディーとアシスタントコーチ4人の体制で、それぞれのコーチに役割と責任が与えられていた。例えば、エディーならアタック、スティーブ・ボーズウィック氏(元イングランド代表主将)はラインアウトとキックオフといった具合だ。各コーチは試合に向けて対戦相手を分析し、対策を考えてトレーニングメニューやミーティングのプランを作る。アナリストである私は、コーチ陣の前段階の準備をするのが仕事で、準備内容は各コーチごとに異なる。

エディージャパンの体制
エディージャパンの体制