才能の早期発掘にも応用へ

 NTTは今後は、SBSプロジェクトを“縦と横”に展開する。“縦”は、少年野球などのジュニアからプロまで、さまざまなレベルのアスリートと連携してデータを取得する方向性だ。これによって、スキルレベルによる体の使い方や脳内情報処理の違いが明確になり、「優れたアスリート」になるための条件を見つけ出せると期待する。これまで、スポーツにおける指導は体格の違いなどにかかわらず画一的だったが、個々の体格に合ったトレーニング法を提供できる可能性がある。

 加えて、優れた才能の発掘や育成に対する知見の獲得を目指す。「一般のスポーツジムや少年野球チームでも脳機能の評価ができるようになれば、才能の発掘などに応用することも可能」と柏野氏は期待する。

 一方、“横”は他競技への展開だ。テニスやバトミントン、格闘技など野球と同様に“対人インタラクション”がある競技において、アスリートのパフォーマンス向上に役立てることができる。

 ここ数年、スポーツの世界でも人工知能(AI)の導入の検討が進んでいる。しかし、AIは囲碁のようにルールが決まっている分野では活用しやすいが、スポーツではそう簡単には行かない。ルールはあるものの何が起こるか分からず、アスリートの一瞬のひらめきなど暗黙知も多いからだ。

 スポーツ脳科学の研究は、ここに一石を投じる可能性がある。脳内情報処理とパフォーマンスの関係性の解明が進み、アスリートの暗黙知を形式知にできればスポーツ界でのAIの活用が進展。「AIの研究自体にもブレークスルーを起こせる可能性がある」(柏野氏)。まさに「脳」は未知なる可能性を秘めている。