今後は、メンタルとパフォーマンスの関係性についての研究を進める。心拍数上昇(交感神経賦活)は、良いパフォーマンスを発揮するのにある程度は必要だが、それが過度になるとパフォーマンスを阻害する。どの程度の心拍数上昇が個々のアスリートにとって最適であるかを明らかにする。さらに、最適な心拍数にもっていく方法の開発を目指す。長期的には、アスリートがよく言う「ゾーン」(周囲がまるで見えないほど試合に集中している状態)や「イップス」(精神的な要因からスポーツの動作に支障をきたす状態)といったスポーツ界の“逸話”のメカニズムを解明したいという。

体の使い方のプロとの違いが明らか

 NTTが目指しているのは、脳を鍛えてパフォーマンスの向上を支援する新しいトレーニング法の開発だ。そこで重要になる要素のひとつが、アスリートに知見をどうフィードバックするかである。カギとなるのが「潜在脳機能」という、本人が自覚していない脳内情報処理であるためだ(前編を参照)

 そこで、開発を進めているのが聴覚を利用したフィードバック法だ。体の各部位にセンサーを付けて、筋肉の動きに対応した音を鳴らす。具体的には、体の部位によって音の周波数を変え、さらに筋活動の大きさをリアルタイムで音の振幅にアサインすれば、音によって力を入れるタイミングや強さが直感的に分かる。

運動中の筋肉の電気的活動を可聴化して感覚的にフィードバック。体の各部位に筋電センサーを取り付け、筋活動の大きさを音の振幅にアサイン。下半身から上半身に向かって各部位の音の周波数が高くなるように設定しておけば、筋活動を聴覚でフィードバックできる(図:NTT)
運動中の筋肉の電気的活動を可聴化して感覚的にフィードバック。体の各部位に筋電センサーを取り付け、筋活動の大きさを音の振幅にアサイン。下半身から上半身に向かって各部位の音の周波数が高くなるように設定しておけば、筋活動を聴覚でフィードバックできる(図:NTT)
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 下図は、草野球愛好者と元プロ野球選手の投球時の筋活動を音に変換したパターンの比較だ。縦軸は周波数で、色が赤に近づくほど強度が高いことを示す。これを見ると、元プロ野球選手は下半身から上半身への力の移動がスムーズであることが分かる。無駄な力が入っておらず、かつ必要なところでは強度が高くメリハリがあるのに対して、草野球愛好者は上半身への力の伝達がうまく行われていない。
草野球愛好者と元プロ野球選手が投球した際の筋活動を音に変換したパターンの比較。横軸は時間、縦軸は音の周波数で、色は音の振幅の大きさ(赤に近くづくほど大きい)を表す。元プロ野球選手の投球動作にはメリハリがあり、下半身から上半身への力の伝達もスムーズであることが分かる(図:NTT)
草野球愛好者と元プロ野球選手が投球した際の筋活動を音に変換したパターンの比較。横軸は時間、縦軸は音の周波数で、色は音の振幅の大きさ(赤に近くづくほど大きい)を表す。元プロ野球選手の投球動作にはメリハリがあり、下半身から上半身への力の伝達もスムーズであることが分かる(図:NTT)
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 トップアスリートとの体の使い方の違いを音で伝えることで、自らの動きを脳を通じて修正できるようにするのが狙いだ。