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スポーツIT革命の衝撃

脳を鍛えて勝つ NTT、スポーツ「未踏領域」への挑戦

NTT「スポーツ脳科学プロジェクト」(上)

2017/03/06 00:00

内田泰=日経BP社デジタル編集部

キーワードは「潜在脳機能」

 アスリートがパフォーマンスを最大限に発揮するには、「心・技・体」がそろうことが不可欠だ。

 ところが、既存のスポーツ科学では主に「体」(筋力、心肺機能、障害予防など)のメカニズムの解明に焦点が当てられ、脳の活動が大きく影響する「心」(やる気、緊張、リラックスなど)と「技」(巧みな協調運動、正確な状況把握、瞬時の意思決定)の研究はほぼ手つかずの状態だったという。

 脳科学の分野でも、「手を伸ばす」「モノを見る」など基本的な動きの研究事例は膨大にあるが、スポーツのパフォーマンスへの影響に焦点を当てたものはほとんどない。

 ここでキーワードになるのが「潜在脳機能」だ。本人が自覚していない脳内での情報処理のことで、柏野氏によるとこれが「アスリートのパフォーマンスを決定付けているとも言える」。冒頭にあるように、バッターは反復的な練習による学習を基に、潜在脳機能で身体をコーディネーションし、ボールを打っているという。

 NTTではここ10年ほど、モノを見たり聴いたりする際に、潜在脳機能のプロセスが重要であることに着目し、メカニズムの解明に取り組んできた。潜在脳機能が眼球運動や発汗、心拍など体の反応にどう表れるのかを探ってきた。その中で、「スポーツこそが、潜在脳機能のプロセス解明のカギを握っている」(柏野氏)ことに気づき、プロジェクトの発足に至ったという。

肝は「無拘束・非侵襲」の計測

 潜在脳機能のメカニズムを解明するためには、運動中に体の表層に現れる微小な変化をセンシングし、それを解析する必要がある。その点、野球やソフトボールは研究対象として難易度が適度だという。ピッチャーが決まった位置で止まった状態から動き始め、バッターが打つという決まった動作をするので、サッカーやラグビーなど多くの選手が入り乱れるスポーツと比較して計測しやすい。

 今回のプロジェクトの肝となるのは、選手のパフォーマンスの妨げとならない「無拘束・非侵襲」の計測だ。そのために利用するのが、着るだけで生体情報を計測できるウエアラブルのセンサーだ。

 具体的には、心拍や筋電などを計測できる機能素材「hitoe(ヒトエ)」(NTTと東レが共同開発)を組み込んだウエアや、体の動きをセンシングするために慣性センサー(加速度/角速度センサーからなる)を内蔵したモーションキャプチャー用スーツなどを着たりする。また、バッターは視線を追跡する「アイトラッカー」をかけて打撃練習に臨む。

 こうした様々な方法での生体情報の取得と実験室での脳機能計測などを並行して実施し、選手固有のパフォーマンスと脳機能の関係解明を目指す。脳機能の評価には「body-mind reading」という技術を用いる。これは体の表層に現れるわずかな変化から脳の状態を解析する技術で、特に眼球の動きから心理状態を推定できるという。「音楽を聴いている時の眼球の動きから、それが好きかどうかを8割程度の正解率で推定可能だ」(柏野氏)。

 プロに近いレベルから非レギュラーの選手まで、幅広いレベルの選手を計測することで、「より優れた選手になるための条件などが見えてくる」(同)と期待している。

違いは瞬時の運動調節能力

 SBSプロジェクトは本格始動したばかりだが、これまでの研究から興味深い知見がいくつか得られている。その一端を紹介しよう。

 ランダムに投球されるストレートとチェンジアップ(遅い球)に対し、打者はどのように反応しているのか――。打者は0.5秒という短時間にただでさえ複雑な“作業”をしているのに、ボールの速度や回転に変化が加わると難易度ははるかに増す。実際、ストレートは打ててもチェンジアップを打てない打者は少なくない。その違いはどこにあるのか。

 ソフトボールの女子ジュニアのトップ選手を対象に、スマートブルペンでチェンジアップを打てる打者と打てない打者の差の解明を試みた。結果は、「コンマ数秒の運動調節能力」に差があることが判明した。

チェンジアップを打てる選手と打てない選手の打撃時の身体部位の相対速度の違い。ストーレートとチェンジアップについて、ボールリリースからの時間に対応した身体部位の相対速度を計測した。チェンジアップを打てる選手は、リリースから約0.25秒の時点でタメを作って遅い球に対応している(図:NTT)
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チェンジアップを打てる選手と打てない選手の打撃時の身体部位の速度(合計値)の比較。打てない選手はストレートとチェンジアップでほぼ同じタイミングでスイングしているのに対し、打てる選手はチェンジアップのときにタメを作って調節している(図:NTT)
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