ファンエンゲージメントについては。

 SAPの支援によって成功した代表例は米プロバスケットボール(NBA)でしょう。四大スポーツなど米国はスポーツの人気が高い国ですが、ここ数年はファンの高齢化にどこも悩まされています。平均年齢は米男子ゴルフなら60歳前後、米大リーグ(MLB)も56歳前後、米プロフットボールリーグ(NFL)も46歳前後だとされています。ところがNBAはファンエンゲージメントを駆使することで、30歳台を保つことに成功しました。

 取った戦略は、若者世代を狙い撃ちにした徹底的なデジタル技術の活用です。門外不出だったスタッツ(選手やチームの成績データのこと)をオープンデータとして公開しました。ファンがアーカイブにある映像から自分だけの動画を作り、動画共有サイト「ユーチューブ」を通じてシェアできるようにしたのです。例えば、好みの選手のスーパープレーばかりをデータを手掛かりに抽出する、など自由自在です。

 結果、面白い動画を作ろうとするファンが急増し、スマホ世代の若者の間にバスケットボールとの接点が劇的に増えていきました。まさにオープンイノベーションをスポーツの世界で起こしたわけです。 デジタルの力を借りてスタジアムには来ることができない海外ファンの心もつかみ、グローバル時代のファンエンゲージメントも具現化しました。

NBAの各チームの経営に与えた影響は。

 他のスポーツに比べて若いファン層をつかんだという事実は、大手広告主たちをすぐに惹きつけました。なぜなら自動車会社や消費財メーカーも、若者世代との接点を少しでも広げたいからです。おかげでNBAの放映料は一気に跳ね上がりました。直近の契約では以前は1兆円(8年間の契約)でしたが、3兆円(9年間の契約)と3倍になりました。

 これだけの収入があれば、チームに年間100億円近い分配金を支払うことも難しくありません。単純計算で20億円プレーヤーを5人も雇えるわけです。著名プレーヤーに高額年俸を支払ってチーム力を高め合い、試合が盛り上がれば、テレビ観戦するファンが増える。比例してスタジアムに足を運ぶファンも増え、結果としてチケットやグッズも売れる。NBAはこの好循環を作り出しました。