NTTでスポーツにおけるICT(情報通信技術)の活用を推進する「新ビジネス推進室」の中心メンバーに聞くインタビューの後編をお届けする。
 NTTグループは、札幌市と帯広市で2017年2月19日から開催される冬季スポーツの大会「2017 冬季アジア札幌大会」をサポートする。NTTグループが、ウインタースポーツの大会で提供する技術には、「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「自由視点映像」などICT分野で今をときめく技術キーワードが並ぶ。さながら先端技術の宝箱だ。
 NTTは、スポーツ関連の技術とビジネスで何を目指すのか。2020東京オリンピック・パラリンピックに向けた取り組み、そしてスポーツを通じたグローバル展開の意義などについて、あますところなく語ってくれた。
(聞き手は、上野 直彦=スポーツジャーナリスト)
左からNTT 新ビジネス推進室の地域創生担当 担当部長の金子憲史氏、同担当 統括部長の大西佐知子氏、2020レガシー担当 担当部長の小笠原賀子氏
左からNTT 新ビジネス推進室の地域創生担当 担当部長の金子憲史氏、同担当 統括部長の大西佐知子氏、2020レガシー担当 担当部長の小笠原賀子氏

冬季アジア競技大会に先端の観戦テクノロジーを提供

―― NTT東日本とNTTドコモが冬季アジア札幌大会のゴールドパートナーになっています。その経緯と、どのような技術を提供するかを教えてください。

2017 冬季アジア札幌大会の公式アプリ(画像提供:NTT)
2017 冬季アジア札幌大会の公式アプリ(画像提供:NTT)

大西 NTTグループは、2015年に札幌市と「さっぽろまちづくりパートナー協定」という包括的連携協定を結んでいます。2016年7月には、札幌市が設立した「札幌ICTプラットフォーム検討会」に参画しました。会長は札幌市長で、副会長は北海道大学大学院の山本強教授です。産官学で連携し、ICTを活用した行政課題の解決に取り組んでいます。検討会の「スポーツ・観光ICT推進部会」では、スポーツや観光におけるデータ活用で札幌エリアを発展させることを目指しています。

 実は、ウインタースポーツでICTを活用するケースは、世界的にもそれほど多くありません。そこで冬季アジア大会という場を活用して、札幌というブランドを世界に発信していきたいという札幌市長の思いがありました。札幌には、年間200万人規模の外国人観光客が訪れています。この数は今後も増えていくことが見込まれるので、今回の大会を機に札幌について発信できればと思っています。

 今回のアジア大会で、NTTはスマートフォン向けの公式アプリを提供します。それに加えて大会組織委員会からは、フィギュアスケートとアイスホッケー、カーリングの3競技で新しい観戦体験を提供してほしいというリクエストがありました。アプリを使って、自由視点映像やマルチアングル映像、試合の進行に合わせたリアルタイム解説の配信などを、会場だけでなくどこでも楽しめるようにします。

 例えば、アイスホッケー会場では、ゴール裏を囲むように設置した16台のカメラで撮影した試合映像を1本の動画として生成し、オンデマンド配信します。ユーザーは、画面上で視点を左右に自由に動かしながら試合を楽しめようになります。これは実際の大会中としては、世界で初めての取り組みです。アイスホッケーやフィギュアスケートで複数のカメラで撮影する放送用映像から、ユーザーが好きな角度の映像を選んで視聴するマルチアングル映像のライブ配信にも取り組みます。

アイスホッケーでの自由視点映像サービスのイメージ(画像提供:NTT)
アイスホッケーでの自由視点映像サービスのイメージ(画像提供:NTT)

 カーリングでは、ストーンの配置やスコアをリアルタイムでライブで確認できる情報配信を実施します。このほか、ヘッドマウントディスプレーを用いたVR(仮想現実)技術で選手の視点やストーンの目線で事前に撮影した競技映像を体験できるサービスも提供します。

―― ウインタースポーツならではの苦労はありますか?

大西 今回は屋内競技なので天候は問題ありません。ただ、会場自体が狭いことや、20年前にできた建物でICTを活用する設計ではないため、電源が足りないといった課題はありました。