―― 2016年6月から、大宮アルディージャのホーム「NACK5スタジアム大宮」でもWi-Fi環境の整備に取り組んでいますね。同年9月には、同スタジアム内で映像配信サービスも始めました。スタジアムでのWi-Fi導入には、どのような利点があるのでしょうか。

大宮アルディージャのアプリ(画像提供:NTT)
大宮アルディージャのアプリ(画像提供:NTT)

小笠原 Wi-Fiを使ったサービスには、2つの側面があります。1つは、無料の通信サービスとして快適に動画を見られたり、ソーシャルメディアへの発信ができたりする環境を構築することです。イベント会場などの混雑した場所では、携帯電話の移動通信回線だけではつながりにくくなるということが起きがちです。きちんとWi-Fi環境を整備することで、インターネットにつながりやすい環境を担保できます。

 もう1つの側面は、特定のエリアで快適な通信環境を用意することで、そのエリアでサービスを提供する事業主が付加価値のある限定サービスを提供できるようになるということです。より効率的に顧客にリーチし、自分たちが配信したいコンテンツを届けるにはどうしたらいいかを考えて、NACK5スタジアムでは映像配信にIPマルチキャストの技術を導入しました。この技術を使うことで、多数のユーザーに効率的に映像コンテンツを届けられるようになります。放送に近いので、動画CMを導入して収益につなげるような取り組みも導入しやすくなります。

―― 今後、NACK5スタジアムの取り組みをどう進めたいと考えていますか。

小笠原 例えば、ファンとのつながりを強めるCRM(顧客管理)的なサービスの強化です。映像配信などのサービスを提供するためにスマホアプリを開発しましたが、このアプリは、ファンサービスやファンとのエンゲージメントを支えるコアツールとしての可能性を秘めています。

 さらに、スタジアム周辺エリアの街づくりとも連動していきたいと考えています。地域の商店街や、近隣の交通機関、観光地などと連携しながら、ICTを活用して相互送客ができるようなプラットフォームにつなげていきたいですね。

 例えば、試合のアーカイブ映像を近隣の飲食店で試合後に流せるようにして、それを見ながら食事ができるような取り組みです。スタジアムでの観戦後にすぐに帰るのではなく、試合前も試合後も大宮で1日楽しめる。アルディージャやJリーグ、近隣の施設と協力しながら、そうした環境づくりを手伝っていきたいと考えています。

「スマートスタジアム」を基点に「スマートシティー」を実現

―― Jリーグの中西(大介)常務理事も、「スマートスタジアム」を基点にした「スマートシティー」の構想をよく話していますね。スタジアムのような数万人の観客が集まる場所で快適な通信環境を用意するために、どのような工夫をしていますか。特に、映像配信のように特定の時間帯に大量のアクセスが起きるサービスは、難しさが増しそうですが。

金子 NACK5スタジアムでは、スタジアム内に映像配信サーバーを設置しています。IPマルチキャストで3チャネルの映像を配信していますが、ユーザーからのリクエストと映像配信はスタジアム内で閉じているわけです。

 スタジアムの外のインターネット上に配信サーバーを置くと、スタジアムから外につながるインターネット回線自体を太くする必要があります。多くの人が一度に映像にアクセスすると、映像どころか、インターネット自体につながらなくなってしまうこともあるでしょう。スタジアム内に映像配信サーバーを設置することで、映像サービスについてはインターネットのトラフィックはなくなります。そうすることで、効率的に高品質の映像を見る環境を実現しています。

スタジアムでの観戦に楽しさを加える(画像提供:NTT)
スタジアムでの観戦に楽しさを加える(画像提供:NTT)