復活の要因は「長期的な育成」と「データ活用」
1988年のソウル五輪で卓球が正式種目として採用されて以降、五輪で日本男女が共にメダルを獲得したのは2016年リオ大会が初めてのことである。1950年代には「世界最強」の名を欲しいままにしていた日本が世界トップレベルに戻るまで長い時間がかかってしまったものの、今、打倒中国の一番手とも言える存在になっている。現在の躍進を支えているものは何か。前・卓球女子日本代表監督の村上恭和氏は、ひとつには「長期的な強化育成」が実った結果だと話す。「日本卓球協会は2000年頃に小学生のナショナルチームを作り、長期的な視点に立って選手たちを育成していきました。また、2008年には東京都内にナショナルトレーニングセンターが設立され、代表クラスの選手たちはそこで練習をするようになりました」(村上氏)
さらにもうひとつ、躍進を支えているのは「データと映像の活用」だ。そのデータを任されているのが、日本代表チームのアナリストである池袋晴彦氏だ。
「日本選手と海外選手たちの試合をビデオで撮影し、その映像を編集・分析することが私の主な仕事です。分析には「スポーツコード」というアプリケーションを使用しています。試合中に放たれたサービスやレシーブの種類、何球目で得点/失点につながったか、得失点の推移などをまとめ、映像と連動させた資料を作り、チームに提供しています」(池袋氏)こうした映像データは過去数年間分をストックしており、各国の選手と日本選手の相性を見るのにも役立っているという。卓球日本代表は、こうしたデータをトレーニングの方向付けや試合時の戦略立案に活用し、リオ五輪で王国復活の足がかりを作ったのだった。
膨大な量のデータと映像を用意
卓球には他の多くの球技と異なる点が一つある。それは、大会時のトーナメントの組み合わせが直前まで決まらないということだ。「ITTFワールドツアー(国際卓球連盟(ITTF)主催の国際オープン大会の総称)の場合、大会は週の中頃から始まりますが、組み合わせが決まるのはその週の頭です。五輪の場合も大会直前にならないと組み合わせは決まりません。そのため、長期的な視点での対策が立てづらい面があります。リオ五輪の団体では、組み合わせが決まるまでは対戦の可能性がある15ヵ国すべてのチームをシミュレーションしていました」(村上氏)
このような理由もあって、どのような相手と戦うことになってもすぐに戦略を練られるよう、池袋氏は膨大な量のデータと映像をストックしているのだろう。ただし、対戦相手の映像ならばどのようなものでもいいというわけではないとも、池袋氏は話す。
「卓球の場合、対戦相手が自分以外の選手と戦っている際の映像やデータは、参考にはするものの、そこまで重視しません。それは、どの選手も対戦相手ごとに戦術や使用するテクニックを変えているからです。メインとなるのは、自分とその対戦相手が過去に戦った際のデータです」(池袋氏)