「浅草」で遠隔医療、患者への橋を架ける

モバイル型12誘導心電計「smartheart」を活用、浅草ハートクリニック

2015/12/02 00:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 下町情緒が残る、東京・浅草。海外からの観光客でにぎわう浅草寺のすぐ近くに、そのクリニックはある。

浅草ハートクリニック院長の真中哲之氏。ポータブル心電計「smartheart」を手に
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 「浅草の遠隔医療なら浅草ハートクリニックへ」――。そんなキャッチフレーズを掲げ、内科・循環器内科を専門とする「浅草ハートクリニック」を2015年7月に開設したのが、院長の真中哲之氏だ。

 同院と隅田川を挟んだ対岸、墨田区で生まれ育った同氏は、東京女子医科大学で心臓ペースメーカーや植え(埋め)込み型除細動器の遠隔モニタリングを用いた循環器診療に従事。2007~2015年には同大学 循環器内科 心臓電気生理検査室長(不整脈治療カテーテル検査室長)を務めた。

 こうした経験を生かし、浅草ハートクリニックでも、遠隔モニタリングを使った診療に力を入れていくという。そのツールの1つとして利用するのが、ポータブル心電計「smartheart(スマートハート)」。12誘導の心電図を測定でき、スマートフォンと連携させて測定データをリアルタイムに確認できる(関連記事)。

 循環器診療における遠隔モニタリングの有用性やsmartheartの使用経験について、真中氏に聞いた。

(聞き手は大下 淳一=日経デジタルヘルス)

――ペースメーカーや植え込み型除細動器の遠隔モニタリングとは、どのようなものなのでしょうか。

 最近のペースメーカーや植え込み型除細動器にはデータ送信機能が付いていて、サーバーにデータを蓄積しておけるんです。そして何らかの異常を検知すると、医師のもとへメールなどでアラートが飛びます。

 私はもともとペースメーカーや除細動器の植え込み術などに携わってきたのですが、重度の循環器疾患は患者の生命にかかわる病気。何とかできないかと考えていたところへ、ペースメーカーや除細動器の遠隔モニタリングを使って、心不全患者などのQOL(quality of life)を向上できる可能性があることが分かってきたんです。

 日本では2008年ごろからペースメーカーや除細動器の遠隔モニタリングの動きが始まり、私が務めていた東京女子医大でも導入しました。患者からのニーズが大きいですし、何より自分自身が面白いと思える取り組みだったので、ここ数年かなり力を入れてきました。

 ペースメーカーや除細動器を植え込んだ患者には1000人以上携わってきたのですが、今でも継続して携わっている患者が多くいます。ですから、アラートはひっきりなしに来る。負担は小さくないですが、苦には思わないですね。

――遠隔モニタリングが役に立つと実感する場面は多いですか。

 実際に、アラートを事前に受け取ったことで、患者の命を救えたケースがあります。除細動器は、作動すると普通は衝撃で飛び上がるくらいなのですが、例えば認知症の高齢者では作動したことに気付かないことがある。ですから、遠隔で常にモニタリングすることの意義は大きいですね。

下町の情緒を感じさせる院内
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 植え込みデバイスは最近すごく進化していて、心臓に植え込むことで心臓内部の(動脈)圧を測れるセンサーも登場しています。心不全の管理などに有用なデバイスで、日本でもあと2年くらいすると使えるようになると思います。

 遠隔モニタリングは有用性が高い一方、やはり保険(点数)がハードルになっています。例えば、ペースメーカーの指導管理料は、遠隔モニタリングでは550点、それ以外では360点。そして対面診療でないと保険点数は算定されません。

 遠隔モニタリングを使うと、患者に病院に来てもらう頻度はすごく減らせるんですね。数カ月とか1年に1回でいい。そうすると、今の保険(点数)では医療機関にとってはほとんどボランティアみたいな金額にしかなりません。これでは利用は広がらない。不整脈学会などと一緒になって、これを変えていくための働きかけをしようとしています。

――smartheartが日本で発売された時、すぐに興味を持ちましたか。

 飛びつきましたね。これはいい、と思った理由は三つあります。

 第1に、狭心症などの発作が起きた時、その症状を心電図できちんと捉えられることです。日々、診療をしていると患者は「あの日の夜、すごく胸が痛かったんです」といった訴えをするのですが、その時の症状はデータとしては残されていない。診察時にはたいてい症状は治まっていますから、発作時の状況を推測する手立てはないんですね。

ポータブル心電計「smartheart」。利用者が一人で簡単に装着でき、測定開始から約30秒で結果が得られる
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 24時間装着するホルター心電計も、しばしば症状を正確に捉えられません。発作の頻度が非常に低い場合もありますからね。これに対してsmartheartは、症状が起きた時に装着し、その時の症状をきちんと記録できるメリットがあります。

 ポータブルタイプの心電計は以前からあったのですが、smartheartが画期的だったのは12誘導という点です。心電図を専門的に読む立場からすると、12誘導でないと得られない情報はすごく多いんですね。例えば、1誘導だと不整脈を捉えることはできますが、狭心症の発作は捉えられない。smartheartなら、狭心症の症状もきちんと捉えられるわけです。

――日常診療に使う上で測定精度は十分ですか。

 わずかにノイズが入る印象はありますが、問題にはなりません。心電図を読む時には、正確に診断するために必要な情報が取れているかどうかが大切です。その点で問題は感じません。現状では、ユーザーがスマートフォンを操作しなくてはならないので、もう少し高齢者にも優しいインターフェースになるといいかなと思います。

 飛びついた理由の2つ目ですが、患者に安心感を与えられることです。狭心症などを抱えている患者は、いつ発作が起きるかと常に不安なんですね。そしてずっと不安だと、なんとなく胸が痛いような気がしてくる。ペースメーカーでもそうなのですが、遠隔で常にモニタリングしていると、患者は安心するんですね。これは大きなメリットです。

 そして第3に、専門医へのコンサルティングのツールとして使えることです。

――第3の利点について、具体的に教えてください。

 私は浅草ハートクリニックに加えて、埼玉県の皆野病院で外来を行っています。この病院は100床を超える規模ですが、山深いところにあって、心電図を専門的に読める常勤医師がいないんです。

 そこで、同病院の救急外来にsmartheartを設置しました。実際に、救急搬送された患者の心電図を遠隔で見て、治療について遠隔指導するという使い方を実証できました。このように、医療機関同士を連携させるツールとしてもsmartheartは有用だと思います。

――大学病院から個人クリニックへと場を移した今後も、smartheartなどの遠隔モニタリングツールを活用できそうですか。

 そう思います。遠隔モニタリングのメリットは圧倒的に大きいですし、これを活用することで医療を変えられると信じています。

 患者とのコミュニケーションも非常に重要ですね。これも遠隔ツールの一つなのですが、患者のつぶやきを記録し、医師と共有できるSNSアプリを企業と共同開発しました。何か症状が起きた時などの状況をスマートフォンに向かってつぶやくだけで、音声とテキストでそれが記録される。高齢者を含め、誰もが使えるツールとして有用だと考えています。

 この浅草のクリニックまで、とても遠くから足を運んでくれる患者もいます。クリニックならではの利点を生かし、一人ひとりの患者とこれまで以上にじっくりと、長く付き合わせてもらえたらと思っています。