日立製作所は、電力損失が非常に小さい新しいパワーモジュール「DuSH」を開発した(図1)。トランジスタにSi IGBTを、ダイオードにSiCショットキー・バリア・ダイオード(SBD)を利用した、いわゆる「ハイブリッド型」のモジュールながら、SiC MOSFETと同MOSFETのボディーダイオードを利用した「フルSiC」モジュールに迫る低い電力損失を実現したことが最大の特徴である。「デュアルサイドゲート」と呼ぶ新しいゲート構造を備えた次世代のIGBTを採用したことで達成できた注1)。SiC SBDは製品化されてから15年以上が経過し、以前よりもずいぶんと安価になったものの、SiC MOSFETはまだ高価である。今回開発したパワーモジュールをインバーターなどの電力変換器に利用すれば、コストを抑えながら、電力損失の50%削減が可能になる。

パワーモジュール「DuSH」
図1
パワーモジュール「DuSH」
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 本稿では、デュアルサイドゲート構造のIGBTや同IGBTを搭載したDuSHモジュール、さらにDuSHモジュールに採用予定の新しい実装技術について、パワーデバイスの専門家・ベテラン研究者で、開発を主導した日立製作所 研究開発グループの森睦宏氏に、3回にわたって解説してもらう。第1回の今回は、日立グループのIGBTの開発を振り返りつつ、デュアルサイドゲート構造の基になったサイドゲート構造を備えたIGBTを説明してもらう。(日経テクノロジーオンライン)

注1)このハイブリッドモジュールについて、パワー半導体の国際学会「ISPSD 2017」(2017年5月28~6月1日、北海道・札幌市で開催)で発表し、最優秀論文に贈られる「THE OHMI BEST PAPER AWARD」を受賞した。デュアルサイドIGBTに関しては、パワー半導体や、インバーターやコンバータといったパワーエレクトロニクス機器の展示会・国際会議「PCIM Europe 2017」(2017年5月16~18日、ドイツ・ニュルンベルクで開催)で発表し、「Young Engineer Award」を受賞している。