本コラムは、数々のイノベーションで広く知られる3Mグループにおいて、大久保孝俊氏が体得したイノベーション創出のためのマネジメント手法を具体的に紹介します。大久保氏は、自身で幾つものイノベーションを実現しただけでなく、マネジャーとして多くの部下のイノベーションを成功に導きました。

前回:アイデアを評価する2つの指標、NUDとRWW

 今回からイノベーションの設計図の詳細に入る。まずは組織の設計、つまりイノベーションマネジメントの具体的な手法について紹介しよう(図1)。

図1 イノベーションの設計図(組織の設計編)
図1 イノベーションの設計図(組織の設計編)
「技術は会社に帰属する」と「経営資源(強みの基盤)の情報を社内で共有する仕組み」により、組織の強みを活かして個のやる気を引き出していく。なお、前号では「変わらないトップマネジメントの姿勢」と「イノベーションを創出させるマネジメント」の位置を逆にしていたが、イノベーションにおけるトップマネジメントの重要性を考えると、上記の順の方が実態に則していると考えて入れ替えた。
[画像のクリックで拡大表示]

 組織の設計は大きく、「変わらないトップマネジメントの姿勢」「イノベーションを育む企業文化を構築する仕組み」「イノベーションを創出させるマネジメント」で構成され、さらにそれぞれが複数の項目に細分化されている。今回は、「変わらないトップマネジメントの姿勢」に属する「技術は会社に帰属する」と、「イノベーションを育む企業文化を構築する仕組み」に属する「経営資源(強みの基盤)の情報を社内で共有する仕組み」の2つに着目する。

組織が個に“武器”を与える

 自社のトップマネジメントの姿勢や企業文化に対しては、抽象的なイメージしか持っていない人が多いかもしれないが、3Mの場合は極めて実践的だ。イノベーションに成功する確率を高めるには戦略的な取り組みが重要で、そこではトップマネジメントが戦略的な意思決定を行い、それに従って企業の組織が定められた役割を果たさなければならない。

 まずトップマネジメントがすべきことは、企業が組織として持っている経営資源(強みの基盤)を使い、イノベーションの主役である“個”を支援することである。イノベーションはハイリスク/ハイリターンの仕事だ。目に見える成果がなかなか上がらないことも多いので、担当者は相当つらい。だから、彼らを孤立させてはならない。

 たとえて言うと、組織による支援とは担当者にイノベーションに挑戦するための“武器”を与えるようなものである。この武器をしっかりと手にすることで、徒手空拳で立ち向かうよりも成功の確率が数段高まる。さらに、自分が1人ではないと担当者が実感できることも大きなメリットである。

 では3Mが担当者に与えられる武器とは何か。それが「経営資源(強みの基盤)の情報を社内で共有する仕組み」である。具体的には、「テクノロジープラットフォーム」(技術基盤)と「テクフォーラム」だ。