本コラムは、数々のイノベーションで広く知られる3Mグループにおいて、大久保孝俊氏が体得したイノベーション創出のためのマネジメント手法を具体的に紹介します。大久保氏は、自身で幾つものイノベーションを実現しただけでなく、マネジャーとして多くの部下のイノベーションを成功に導きました。

 経験がアイデアに直結するという例としては、3Mが実施している「テクフォーラム」が参考になる。テクフォーラムは、まだ製品に採用されていない、もしくは開発中の技術を持ち寄って、他の技術者にアピールする草の根レベルの技術交流会である。技術者が自主的に運営しており、会社は費用を負担するが口は一切出さない。

 テクフォーラムの大きな特徴は、実際にサンプルを持ち込むことだ。見て触り、音がするものなら聞き、匂いがあるものなら嗅ぐ。なめてみることもある。提示された技術を五感で感じた上で、技術者同士が直接議論するのである。

 落ちない付せん紙「ポスト・イットノート」の商品化にも、このテクフォーラムが大きく貢献している。3M中央研究所の研究者であるSpencer Silverは1968年、「くっつくけど、簡単にはがせる接着剤」を発明した。その後、テクフォーラムの分科会で、「この技術を活用した顧客の課題を解決できる画期的な製品があるはずだ」と情熱を込めて訴えた。当然サンプルも用意していたはずだ。