iPhone 6sの分解は、メーン基板のシールドを引きはがすところでは終わらない。場所を移して、分解のエキスパートでもある技術者の方々にご協力いただき、いよいよ、タッチパネル機能を搭載したディスプレーモジュールの分解に取りかかる。iPhone 6sの最大の売り物「3D Touch」ーー画面を押し込むことで様々な操作を可能にする機能の実現技術を探るのが目的だ。

 まずは、「感圧センサー」が組み込まれているとみられるバックライトユニットを分離。感圧センサーは“触れる”と“押し込む”という動きの差を圧力の差として区別するもの。iPhone 6sの売り物である「3D Touch」を実現するうえで最重要の部品である。技術者たちはバックライトユニットを手際よく分解していく。感圧センサーを貼り付けた金属板、反射シート、LEDを搭載した導光板、拡散シート、プリズムシートと思しき光学フィルムに分けられた。

 ところが、順調に進んだのはここまでだった。分解班の前に立ちはだかった壁は感圧センサーの付いた金属板だ。感圧センサーを前に一同の期待が高まるが、感圧センサーは金属板にぴたーっと張りつき、どうあがいても分離できない。分解前に技術者たちが噂していた「ラミネート加工」が、これなのだろうか。まずはドライヤーで温めるもはがれず。とうとうオーブンが登場した。

 「設定温度はどうします?」
 「100℃くらいかな」

 「オーブンって、仕上がりに“チーン”とか言ったりしないんですか?」と試しに聞いてみたが、「言わないね……」と、つれない返事。工業用のオーブンにも、分解に専念する技術者にも、つけ込む隙はないようだ。

 温まった金属板が冷めないよう、オーブンに手を突っ込んだまま、感圧センサーを一気呵成に引きはがす。成功!全体が黒い粘着剤で張り付けられていたらしい。

オーブンで温め、感圧センサーをはがした
オーブンで温め、感圧センサーをはがした
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 しかし分解班の歓喜は、ぬか喜びに終わった。よく見ると反対側の面にもやや色のついた透明のカバー層があり、顕微鏡で覗き込んでも配線が見えてこない。当然、カバー層をはがそうと試みたが、これまたはがれない。ドライヤーにアセトン、カミソリ、浮いて見える部分をカッターで切り、そこからはがす……と思いつく限りの方法をすべて試すも、いずれも撃沈。ポリイミドによるコーティングではないかという説も浮上した。

感圧センサーのカバー層をカミソリで削ろうとするが分解できず
感圧センサーのカバー層をカミソリで削ろうとするが分解できず
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取れたー!と喜ぶも、配線のないベタ面部分だった
取れたー!と喜ぶも、配線のないベタ面部分だった
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 結局、透明のカバー層ではなく反対側の黒い粘着剤面を溶剤で溶かすことで決着した。配線を確認し、静電容量方式とみられる感圧センサーは、8行×12列の要素で構成されることが確認できた。ただしこの部品で測れるのは、圧力に加えて、押された部分の大まかな位置だけで、ユーザーの指の位置を細かく測る、タッチパネルの機能は別にあるようだ。