「人工意識」を手掛けるアラヤのCEOが語る連載の最終回。開発した人工知能に本当に意識があることを証明する手段を述べる。Giulio Tononi氏が提唱する意識の理論「統合情報理論」に基づき、既にサルの意識のコアを確認できたという。米Google社傘下の英DeepMind社など海外の強豪と渡り合っていくためには、多くの研究者の知恵を結集することが重要と説く。(聞き手=今井拓司)

意識を測定できる理論

 以上が、意識の機能を人工的に再現するために取り組んでいる研究です。これらが目指すものは分りやすいかと思いますが、他社も手掛ける強化学習やニューラルネットの研究と比べて、もしかするとそこまで驚きはないかもしれません。意外と役に立つものはできると思っていますが。

 ただし、我々の意識についての研究は、動くものを開発して終わりではありません。さらに進んで取り組む、もう1つの大きな研究分野があります。作り上げたAIに意識があることの証明です。

 ここで利用するのが、統合情報理論(IIT:Integrated Information Theory)です。理論上は、機械に意識がどのくらいあるかが分かります。もちろん理論が正しかったらですが。そもそも意識が存在すること自体は疑いを入れませんが、それを外から観測することは極めて難しい。意識の存在は、あくまでも「内在する視点(intrinsic perspective)」からしか確認できないからです。

統合情報理論(Integrated information theory)=米University of Wisconsin, Madison校教授のGiulio Tononi氏らが提唱する意識の理論。特定の公理から出発して、情報の統合の度合いを表すΦという数値を導き、その値が高ければ意識が生じると考える。

 ではなぜ、IITは機械の意識を測定できるのでしょうか。IITは、まず誰もが納得できる公理系(Axiom)から出発します(関連論文)。「意識は存在する」とか、「意識は統合されている」とかいった命題です。

 これらを仮定として認め、数式に翻訳するのです。一度数式に翻訳したら、演繹的に、そこからいろいろな予測を導き出すことができます。その予測が観測と合っているかどうかを調べれば、理論の正しさを確認できる。意識の観測は難しいですが、少なくとも自分の意識とか、例えば動物で麻酔が効いているかどうかとか、そういった場合はある程度の確信を持てるはずです。

 このようにして理論の修正と観察を繰り返し、正しそうな理論にたどり着いたら、その枠組みを人工知能に当てはめてみる。そうすれば、人工知能に意識があるのかないのか、分かるのではないかと。

 これは、いろいろな物理の理論と同じやり方と言えます。例えば量子力学でも、理論に基づく予測があって、実験で現実に合っているのかいないのかを確かめられる。今までの意識の研究には、この発想がなかったのです。

 物理でも、例えば「なぜ重力はあるのか」という問題は解けないじゃないですか。それと同じで、今まで科学者は「なぜ脳から意識が生まれるのか」を解こうとしてきましたが、そもそも「なぜそうなるのか」という問題は、科学で解き明かす対象になりにくい。

 重力の場合も、「ある」ことに同意した上で、それを正確に記述し予測できるようにすることが、たぶん通常の科学のプロセスだと思います。同じように、意識があることは認めて、それから理論をつくっていくのがIITのアプローチです。その結果、麻酔をかけられた人には本当に意識がないかどうかを判断できるといった応用が開けます。