――アリーナの収容力をなぜ1万人規模にする必要があったのでしょうか。

上田 現在、沖縄県にはこの規模の屋内施設がありません。沖縄コンベンションセンターの5000人規模が最大です。沖縄県には最大2万7000人収容の大型MICE施設(国際会議やセミナー、展示会、見本市などのための施設)の建設計画があります。一方、沖縄市が考えるアリーナは、スポーツやエンタテイメントを中心とした用途となっています。

 我々は収益性のある、自走できる施設を目指しているので、コンサートなどスポーツイベント以外の使用も重要と考えています。ゴールデンキングスのBリーグでのホーム試合の開催日数は年間30日とされており、これ以外の日にいかに稼働するかが課題となるからです。

 有名アーティストのコンサートのプロモーターをしている方に聞くと、アリーナツアーでは北海道から九州まで1万人規模というのが一種の規格となっているそうです。しかし、沖縄県にはそのような施設がないため、イベントの仕様を変更する必要があったり、アーティストの方はツアーの打ち上げやお忍びという形で沖縄に来られたりするパターンが多いそうです。現在ある施設では、収容能力が限られていますし、かといってチケット代を上げることも難しい。自ずと大規模イベントは屋外で開催せざるを得ないこととなりますが、沖縄はあいにく雨が多い。

 もちろん、沖縄ならではの強みもあります。通年で寒くないし、アジアから近いという地の利があります。平成28年度に、沖縄県を訪問した観光客数は年間約870万人ですが、そのうちインバウンドは約210万人です。

 それを伸ばす余地は大きいですが、「沖縄には夜のエンタメがない」との指摘もあります。そこで、バスケットボールの試合観戦やコンサートでこうしたニーズに対応できれば、もっと人を呼べるのではないか、ここにチャレンジできるのではないかと考えています。実際、沖縄市は民謡、沖縄ロックも含めて地域資源が豊富です。

――新アリーナは「観る施設」「使いやすい施設」という点で、どのような特徴があるのでしょうか。

上田 アリーナは地上5階建の施設で、スポーツイベント時の座席のイメージは、1階はアリーナ席、2階は固定席・移動席、3階は固定席・ボックス席、4~5階は固定席となっています。

 臨場感を出すために「観る」部分にこだわっています。設計は、梓設計が担当していますが、これに加えて沖縄バスケットボール(琉球ゴールデンキングスの運営会社)に、利用者の実用性などの観点から監修して頂いています。沖縄バスケットボールの意見も踏まえ、アリーナは8角形の形状をしています。いろいろシミュレーションをしましたが、通常の4角形だと“見えづらい席”が増えます。8角形とすることで、1万人の収容規模でもどの席からもよく見えるよう設計を工夫しています。

 使いやすいという観点では、アリーナの搬入口を大きく設計し、床はコンクリートのベた打ちにして、この上に板を敷く形で多目的に活用できるようにしました。11トントラックが直接乗り入れて、容易に搬入・搬出ができるため、ステージの設営コストが下がります。現在ある野外ステージでは設営に数百万円程度かかりますが、アリーナでは設営コストはかなり安くなると考えています。

興行者が「使いやすい施設」のイメージ(図:沖縄市)
興行者が「使いやすい施設」のイメージ(図:沖縄市)
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――米国ではスタジアムやアリーナに各種のIT(情報技術)を実装して、観客のUXを高めたり収益を上げる「スマート化」が進んでいますが、ITへの対応はいかがでしょうか。

上田 我々は「スマートアリーナ」を目指しています。実際、「カメラやセンサーをできるだけ多く設置できるようにすると良い」「その際、必要なケーブルを取り外しできるようにすると良い」といったような話を伺っています。沖縄市は施設を整備する立場として、実施設計に何を反映できるかを精査しています。今後決定される運営会社が「こういうUX(ユーザー体験)を提供したい」と考える場合に、施設側がその支障とならないよう、多目的に使えるように整備していきます。このほか、周辺の街づくりを含め「スマートシティ」を目指すことが大事だと認識しています。

「(仮称)沖縄市多目的アリーナ」の事業スキーム。アリーナ自体は沖縄市が所有し、運営管理事業者が運営する(図:沖縄市)
「(仮称)沖縄市多目的アリーナ」の事業スキーム。アリーナ自体は沖縄市が所有し、運営管理事業者が運営する(図:沖縄市)
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   運営形態については現在、みずほ総合研究所に委託して運営手法や収支について調査しています。運営手法も指定管理者制度、コンセッションなどを検討しています。運営会社は、おそらくなんらかの形で公募をかけることになるでしょう。 (後編に続く)