市民が集いやすい空間を強調
10月28日の会見では、新しく示されたパースについて意匠を担当する隈研吾氏が説明した。隈氏はまず、外観のディティールを解説。最上部にある庇を「風の大庇」と表現し、「外苑の緑に溶け込む薄く軽やかな庇が特徴だ」と説明した。
新国立は最高高さを約49mに抑える。都心部に立つ東京ドームの高さが約56mであると考えると、隈氏の「低さ」へのこだわりが感じられる。
スタジアムと神宮外苑をつなぐスペースは市民の広場となる。隈氏はこの空間を「大地の杜」と表現した。人工地盤にはデッキ下の空間を明るくするためのグリーンボイドと呼ぶ空洞を設ける。床面は環境に配慮した保水性の高いブロックを敷き詰める。
大地の杜からスタンドは「杜の階段」で結ぶ。スタンドの軒庇は在来種の草木を中心に緑化する予定だ。西側に立つ東京体育館と新国立を連結する「グリーンブリッジ」は、幅員を12mを確保した。千駄ケ谷駅を降りた利用者の多くは、このグリーンブリッジを通って競技場に向かうことになる。
人工地盤の下から競技場をつなぐ階段は「大地の階段」と表現した。地面には高木を植える。樹木は枝葉の部分がグリーンボイドを抜けてデッキ上に広がるつくりとなっており、「上下の空間を有機的につなぐ」仕組みだと隈氏は説明する。デッキ下は夜間も明るい空間として十分な見通しを確保する。
外苑西通りに接する歩道は、人工地盤がせり出した空間となる。デッキ下の空間は梁下が6.3mと十分な高さをとり、外光が十分に差し込む開放的なつくりとなっている。この歩道には仕掛けがある。降水量が増すと歩道の内側に小川のような水の流れが生じるのだ。
この仕掛けはかつてこの地を流れていた渋谷川を再現したものだ。隈氏は「旧渋谷川のせせらぎを再生する『せせらぎの道』となる」と説明する。競技場の外周をぐるりと一周する850mの「空の杜」のパースは植栽を植えた空間に多くの市民が散歩する様子を示している。