私たちを取り巻くデジタルの世界は、近年目まぐるしい速さで進化を遂げ、今も着々と進化し続けている。それは、スポーツの世界においても例外ではない。

 ベルギーに本社を構え、デジタル映像制作システムで20年の実績を持つEVS社は、同社がマルチアングル セカンドスクリーンサービスと呼ぶシステム「C-Cast」を提供している。“マルチアングル”と表現するように、さまざまな角度から撮影したスポーツの試合映像を、ライブに近い形でスマートフォン(スマホ)やタブレット端末といった“セカンドスクリーン”に提供するためのシステムだ。2016年9月26〜28日に横浜アリーナで開催された「スタジアム&アリーナ2016」に出展した同社に話を聞いた。

チームや選手の情報配信で付加価値

 例えば、サッカーの試合のゴールシーン。普段テレビの画面で私たちが一度に目にするのは、1〜2方向のカメラによる映像のみだが、実際の試合会場では何台ものカメラが置かれ、多方向から撮影されている。C-Castではゴールネットの裏側からなど、普段テレビには映らずに消去されてしまう映像を、自分の好きなアングルを選択して視聴することができる。

 C-CastのCは「Cloud(クラウド)」を意味している。映像をクラウド上にアップロードし、無線LAN(Wi-Fi)を介してストリーミング配信する仕組みを前提にしており、手持ちのスマホやタブレット端末のアプリで簡単に映像を視聴できる。つまり、インターネット環境と端末さえあれば、誰でも、どこからでもマルチアングル観戦が楽しめるのだ。

 このシステムを使うことで試合映像だけではなく、チーム情報や選手に関連するニュース、成績、インタビュー動画といった情報発信、ツイッターとの連携といった付加価値を追加することが可能で、ファンにとっては魅力的な映像配信サービスを実現できる。

 なお、C-Castはストリーミング配信であるため、視聴者の端末には映像データは残らない。映像の不正利用などの心配がないため、映像を制作・提供する側にとっても安心だ。

EVS社のブースの様子。C-Castは好きなシーンを好きなアングルで見る環境を実現し、スポーツ観戦をより深く・充実したものにできる。
EVS社のブースの様子。C-Castは好きなシーンを好きなアングルで見る環境を実現し、スポーツ観戦をより深く・充実したものにできる。
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スタジアムで新たな体験、マーケティング効果にも期待

 この仕組みはスタジアムでの試合観戦でも活用可能だ。スマホは既に人々の暮らしに欠かせない存在となり、スタジアムへの来場者の大半はスマホを持って来場している。C-Castを使えば、ライブで試合を観戦しながらスタジアムのメインスクリーンには映らない映像を手元の端末で視聴したり、インタビュー動画や試合後の選手の様子を楽しんだりするサービスを実現できる。こうしたスタジアム内のエンターテインメントの提供は、来場者にとって新たなユーザー体験となるだろう。

 「来場者に試合をより楽しんでもらいたい」というのがC-Castをスタジアムで活用する最たる目的ではあるが、スタジアムを運営する側にはこのほかにもメリットがある。

 前述の通り、C-CastはWi-Fiの使用を前提にしている。Wi-Fiの電波を用いて、来場者がスタジアムのどこで映像や情報にアクセスをしたのか、位置情報を取得する機能を備えているのだ。位置情報を取得・解析すれば、観戦者へのサービスを向上するマーケティングで有益な情報源となる。

 実際に、あるスタジアムで位置情報を活用し、来場者の増加に成功した例がある。来場者の行動を解析したところ、スタジアムの中で人が大勢集まる場所と、ほとんど集まらない場所があることが分かった。人が集まらない場所を確認してみると、そこは照明が暗くなっていたり、選手のサインなど魅力的な展示がなかったり、何かしら“人が集まらないネガティブな要素”が存在していた。ネガティブな要素を発見することは、スタジアムの適切な改善計画の基礎となる。改善を施したことで、顧客満足度が上がり、スタジアムの来場者増加に成功したのだという。

 また、同ソリューションを活用して試合の前後にさまざまなエンターテインメントを提供すれば、ファンのスタジアム滞在時間を長くすることもできる。それによって、飲食やグッズの販売など、チケット販売以外の売り上げ増を見込め、新たな収益源につながる可能性がある。

 こうしたテクノロジーの最適な活用は、ファンとチーム、そしてファンとスタジアムのエンゲージメント強化の役割を果たし、「ファン」「チーム」「スタジアム」の3者にそれぞれメリットを与える。スマートスタジアム化は、スポーツ観戦の姿を変えていくだろう。