スポーツ産業の成長にこれまでにない大きな期待が寄せられるなか、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科は2016年10月11日、カンファレンス「KEIO SDM"SPORTS X"Conference 2016」を開催する。そこで基調講演を行うのが、スポーツ産業成長に向けた支援を明確に打ち出した経済産業省である。ここでは、スポーツ産業の成長に向けて経済産業省とスポーツ庁が共同開催した「スポーツ未来開拓会議」の中間報告(2016年6月公表)から、成長戦略の骨子を紹介する。
「スポーツ未来開拓会議 中間報告」の表紙。PDFは以下のURLからダウンロードできる。http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/003_index/toushin/1372342.htm
「スポーツ未来開拓会議 中間報告」の表紙。PDFは以下のURLからダウンロードできる。http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/003_index/toushin/1372342.htm
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 「体育」からの脱却――。日本のスポーツ産業は今、大きな転換点に差し掛かっている。従来の教育的観点でのスポーツ振興から、成長産業として政府がビジネス振興に本腰を入れるモードに切り換わった。産業振興を担う経済産業省はスポーツ庁とともに、2020年以降を展望したスポーツ産業における戦略的な取り組みを示す「スポーツ産業ビジョン(仮)」を2016年度内に策定する。

 「日本は人口減少モードに入ったとされるが、スポーツ人口は確実に増えていく。これまで経産省はスポーツを“無視”していたが、もはや成長産業であることに疑いの余地はない」(経済産業省大臣官房審議官2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会プロジェクトチームの前田泰宏氏)。

 名目GDP(国内総生産)を2020年までに約100兆円増やして600兆円にする――。政府が2016年6月に閣議決定した「日本再興戦略2016」のなかで、スポーツ産業は10個の官民戦略プロジェクトの4番目に挙げられている。「まさにスポーツ産業は日本再興の4番バッター」(スポーツ庁次長の高橋道和氏)という位置付けだ。

 これまで、日本では欧米と比較してスポーツの産業化が遅れていた。例えば、日本のスポーツ産業の市場規模は5.5兆円(2015年)とされるが、GDPで約3倍の米国では50兆円以上の市場を持つ。2019年のラグビーW杯、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年のワールドマスターズゲームズという世界的なスポーツイベントの連続開催を控える今こそ、スポーツ産業振興の“ラストチャンス”なのだ。

 日本再興戦略2016では、スポーツ市場を2025年に15兆円、スポーツ実施率(成人が週1回以上)を2015年の40.4%から2025年は65%という数値目標を掲げる。

2025年に3.8兆円市場へ

 日本再興戦略2016で示されたスポーツ産業の成長に向けた3つの施策が、1.スタジアム・アリーナの改革、2.スポーツコンテンツホルダーの経営力強化(プロ・アマスポーツの振興および人材育成)、3.スポーツ分野の産業競争力の強化(新規ビジネスの創出、スポーツ参加人口の拡大)――である。

 なかでも、柱となるのがスタジアム・アリーナの改革だ。2015年に2.1兆円の市場規模を、2025年には3.8兆円へ拡大させる試算をしている。

 改革のポイントは2つある。1つは、「コストセンターからプロフィットセンターへの転換」である。国内には、国民体育大会(国体)を契機に整備されてきた「国体標準」の施設が多い。これらの施設は、主に競技者の目線で整備されており、観客は“後回し”だった。

 スタジアム・アリーナ改革では、それを大きく変える。このビジネスでは、まず訪問するファンを増やして消費を増大させるのが基本。試合の内容だけでなく、試合の前後・ハーフタイムなどの演出、グッズ販売、飲食も含めて、誰もが再訪したいと思うような特別な体験を提供する。

Bリーグが目指す競技とアリーナの関係。ビジョン実現のためにアリーナの進化が不可欠としている(図:Bリーグ)
Bリーグが目指す競技とアリーナの関係。ビジョン実現のためにアリーナの進化が不可欠としている(図:Bリーグ)
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 もう1つのポイントは、スタジアム・アリーナを核とした街づくり、地域活性化の実現である。スタジアム・アリーナに、宿泊・娯楽、医療・福祉、災害拠点など複合的な機能を組み合わせて地域経済や活動の中心にする。