―― シスコ社はスタジアム・アリーナ向けビジネスの分野で豊富な経験と知見を持っていると思いますが、IT化が進んでいる米国と比較して日本のスタジアムの現状をどう見ていますか。
鈴木 米国と比べてかなり遅れていると思います。「とりあえずWi-Fiが導入され始めた」という段階で、ITを基盤にしたサービス提供も試験的なものが多いのが現状です。そもそも、多くのスタジアムがまだIPネットワーク化されておらず、監視カメラやテレビなどが同軸ケーブルで接続されていたりします。
ただ、現状では遅れている分、シスコの米国本社の成長期待は大きいです。米国では1990年代後半からのスタジアムの更新期が過ぎて、現在では“水平飛行”に入っています。IT化のビジネスの中心は、空港などにシフトしています。日本のスタジアム・アリーナ向けのビジネスは、東京五輪が開催される2020年までの約3年間がチャンスと見ています。
いったんスタジアムをIT化すれば、マネタイズのポイントがいろいろ出てきます。スタジアム関係者だけでなく、IT企業、広告代理店などさまざまな立場の人々が協力して事業モデルを作っていくべきだと思います。まず、スポーツビジネスで「成功モデル」を顧客と一緒に複数作り、それを積み上げてこのビジネスが成り立つことを世の中に証明したいと考えています。
―― 国内でこれまでにシスコ社のスタジアム向けソリューションを導入した事例を挙げてください。
鈴木 西武ライオンズが本拠地とする「メットライフドーム」、楽天ゴールデンイーグルスの「Koboパーク宮城」、ベガルダ仙台の「ユアテックスタジアム仙台」などは、シスコ社の高密度スタジアムWi-Fiを導入しています.例えば、Koboパーク宮城にはWi-Fiのアクセスポイント(AP)が300基程度設置されています。ただし、サイネージは導入されていません。
ガンバ大阪の「吹田サッカースタジアム」には、フィールドの試合の4K/HD映像をリアルタイムにサイネージや大型ビジョンなどに配信する「Cisco Vision」が導入されていて、250枚のサイネージが設置されています(一部はパナソニックのサイネージソリューションとハイブリッド構成)。
―― 国内でもここ数年、「スマートスタジアム」が注目されていますが、IT化に向けての“壁”のようなものはあるのでしょうか。
鈴木 「素晴らしいビジネスプランや収益モデルが作れたけど、IT導入の初期投資に必要な資金がありません」というケースが多いです。特に地方ではほとんどがそうです。
日本の場合、3万人収容規模のスタジアムに、高密度Wi-Fi、サイネージ、スマホアプリ・コンテンツの作成といったソリューションを導入すると、工事費込みでおよそ5億~10億円程度の投資が必要になります。ただ、スタジアムの“ハコモノ”は最低でも200億円以上もかかるし、必ず老朽化して魅力が薄れます。それに比べると、投資額はかなり安いと思います。
シスコ社では、お客様の資金が不足しているときはファンドを通じて初期投資をお手伝いするスキームを用意しています。実際に米国ではその活用例もあります。資金回収の仕方は、お金を全額返金していただく場合もありますが、レベニューシェアやプロフィットシェアなど柔軟に対応できます。