―― 多数のサイネージを配置することで観客との接点が増え、マネタイズの機会も増えるということですね。

赤西 そのときに重要になるのが、サイネージに表示する映像の遅延時間です。日本のスタジアムでは、通常のテレビモニターが設置されているケースがありますが、テレビ放送は実時間から5~10秒の遅延があります。例えば、場内で大きな歓声が上がったのに、それにだいぶ遅れてモニターに映るようでは誰も見ようとしません。そこで、シスコ社のサイネージソリューションでは、0.4~0.5秒という超低遅延でフィールドの映像を送ります。そうすれば、多くの人がスタジアムのコンコースなどに設置されたサイネージの前に立ち止まって試合映像を見るため、そこに広告を入れると大きな効果が期待できます。

 サイネージソリューションでは、ディスプレーに接続して各種の処理を担うSTB(セットトップボックス)と、その上で動作して映像の配信・コンテンツを管理するソフトウエア(CMS)は自社製です。先ほど述べたように、超低遅延での映像表示と、映像の上に動画広告をオーバーレイできる点は、他社製にはない特徴です。もちろん、ディスプレーのハードはHDMI端子さえ付いていれば、メーカーを問いません。

―― 米国ではスタジアムを訪れた観客が席を外している時間もうまくビジネスにつなげているのですね。

鈴木 所詮、Wi-Fiもサイネージも“道具”に過ぎません。観客はスタジアムのネットワークインフラには興味がありません。重要なのは、その“道具”を使ってどんな体験を提供するかです。スポーツビジネスに参入した日本のIT企業の場合は「テクノロジー」から入るケースが多く、順序が逆という印象を受けています。

ITを活用した新しい“おもてなし”のイメージ(図:シスコ社)
ITを活用した新しい“おもてなし”のイメージ(図:シスコ社)
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 米国のスタジアムにおける、ITを活用した新しい“おもてなし”のイメージはこんな感じです。

1. スマホのアプリでチケットを購入
2. スタジアムへ車で行ったら空いているパーキングスロットをスマホで確認して駐車
3. 売店の前にあるサイネージでクーポンを発行しているのでスマホでゲット
4. スマホで自分の位置を検知して座席へ誘導してもらう
5. 席で「5ドルでアップグレード」とスマホに表示されたのでフィールド近くの席に移動
6. 試合開始までの時間に、選手の過去のデータやファン参加型のゲームをスマホで楽しむ
7. スマホでリプレイ映像やマルチアングル映像を見ながら試合を観戦
8. スマホで飲食を注文・決済。バーコードで注文品を待ち時間なしで受け取る
9. 試合後はスマホで渋滞情報をチェック
10. 帰路が混んでいるのでクーポンを使ってレストランで食事

 ちなみに、5の座席のアップグレードは、NBAでは既に導入されています。

 こうした“おもてなし”をITを活用して実現すれば、物販の拡大も期待できます。観客はスタジアムに来て気分が高揚しているからです。例えば、長蛇の列に並ばすにスタジアム専用のアプリで商品を購入して家に届けばうれしいでしょう。このようにスタジアムの収益化のためには、「Wi-Fi」「サイネージ」「スマホのアプリ」のセットが重要になるのです。

(次回「老朽化する“箱”よりIT スタジアム収益化の要諦」に続く)