横浜だからできる大きな構想

 以下では、THE BAYSについての岡村信悟社長のインタビューをお届けする。

―― なぜプロ野球の球団が、THE BAYSのような新しい取り組みをするのですか。

横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長の岡村信悟氏。総務省を経て、2016年4月に入社。DeNAスポーツの事業部長、横浜スタジアムの社長を兼務すると同時に、2016年10月16日に社長に就任した。THE BAYSの1階にあるショップ「+B」のロゴの前で撮影
横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長の岡村信悟氏。総務省を経て、2016年4月に入社。DeNAスポーツの事業部長、横浜スタジアムの社長を兼務すると同時に、2016年10月16日に社長に就任した。THE BAYSの1階にあるショップ「+B」のロゴの前で撮影
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岡村 今やプロ野球というコンテンツは、地域との結び付きなしには語れなくなりました。ベイスターズも横浜に移転して来年で40シーズン目。単に横浜スタジアムで試合を観戦していただくだけでなく、もっといろんな形で市民の方々に活力を与えられる「ソフトインフラ」になりたいと考えています。

 そのために、横浜スタジアムでより多くの体験をしていだくための仕掛けをし、さらにそのエネルギーを外に拡散していきたい。その最初の取り組みとなるのがTHE BAYSです。

―― THE BAYSの理想の将来像とは、どのようなものですか。

岡村 横浜を「スポーツのシリコンバレー」にしたいと考えています。THE BAYSは、そのための最初の拠点です。ただ、すごく小さいので、ここで終わってはいけない。出発点となって、街全体に広がっていく力を生み出したいと思います。

 私には、ぼんやりとではありますが、将来のイメージが見えています。新しく増改築された横浜スタジアム。その2階部分には、スタジアムを一周できるコンコースがあります。その大きなスタジアムで“にぎわい”が作られ、横浜公園の入り口に立つと、にぎわいが大さん橋の方へ海に向かいすっと1本の道になっています。

 そしてTHE BAYSでは、いろんなアイデアを実現した起業家たちがスポーツ産業の地平を広げ、それを世界に向けて発信するのです。

 我々は、できるだけ多くの知恵がここに集まるようにコーディネートしていきたい。それが役割だと思っています。

―― どのような新産業が生まれることを期待していますか。

岡村 スポーツの概念を広げる動きが出てくることを期待しています。例えばVR(仮想現実)やAR(拡張現実感)を活用しながら、よりエンターテインメント性が高い広義のスポーツが生まれる。さらに、スポーツツーリズム。スポーツ観戦を目的としたエンターテインメント性のある宿泊施設が誕生したら面白いでしょう。

 そして健康関連事業。少子高齢化社会に突入しているので、老若男女、誰でも参加できるスポーツが生まれたりすれば、いいですね。

 こうした新産業の創出において、トップアスリートが近くにいたり、スタジアムがあることは重要です。例えば、慶応義塾大学大学院SDMは、センシング技術などを用いてアスリートのデータを収集・解析すること計画していますが、実際にベイスターズの選手がやってきて生体情報などを取得することも検討しています。

 また、THE BAYSで開発したゆるスポーツなどを、横浜スタジアムで実施してテストすることもできます。今年1月には横浜スタジアム内を走る「ハマスタ駅伝2017」を開催しましたが、コースがスタジアムを飛び出してもいいと思います。

―― 「横浜スポーツタウン構想」のようなスケールの大きな街づくり計画は、日本を見渡してもあまりできる都市がないように思えますが。

岡村 プロ野球の12球団を見渡しても、我々のような好条件を有するところは少ないと思います。横浜市は約370万人、神奈川県は約910万人の人口を抱えています。東京だったらいろんな街に分散してしまいますが、神奈川県の中心は明らかに横浜です。

 横浜は近代発祥の地という文化的な伝統を持ち、街としてブランドが確立しています。そして、街の真ん中にはスタジアムがあり、そしてスタジアムと一体となって関内地区の街づくりがなされようとしているところに、東京五輪もやってきます。まさに絶好の機会です。

―― 2020年の東京五輪までの3年半弱は、重要な時期になるのではないでしょうか。

岡村 これからの3年半が勝負です。チームが強くなり、球団事業もうまくいかなくてはなりません。その間、スタジアムは改修するので物理的な制約も大きくなります。それを乗り切って、皆さんに常に先のビジョンを提示し、期待していただくようにならないといけません。

 私としては、東京五輪を通過点にTHE BAYSで生まれた新たな産業が広く展開していくのが理想です。そのとき、「横浜スポーツタウン構想」が本格稼働となります。