横浜DeNAベイスターズが今年3月に始動させた「横浜スポーツタウン構想」は、プロ野球の1球団が、街づくりや産業創出を推進するという、かつてない取り組みだ。これまで進めてきた「コミュニティボールパーク」化構想を街レベルに展開することで、“開港の地”横浜はどう進化していくのか。横浜DeNAベイスターズ社長の岡村信悟氏が、3月8~10日に開催されたイベント「ヘルスケア&スポーツ 街づくりEXPO2017」(主催:日本経済新聞社、日経BP社)の講演で語った、同構想のビジョンを談話形式でお伝えする。
横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長の岡村信悟氏。総務省を経て、2016年4月、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。DeNAスポーツの事業部長、横浜スタジアムの社長を兼務すると同時に、2016年10月16日には初代社長の池田純氏の後を継いで、球団社長に就任した
横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長の岡村信悟氏。総務省を経て、2016年4月、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。DeNAスポーツの事業部長、横浜スタジアムの社長を兼務すると同時に、2016年10月16日には初代社長の池田純氏の後を継いで、球団社長に就任した
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 日本政府は今、「スポーツの産業化」に注目しています。2016年6月に閣議決定した「日本再興戦略2016」の中でも、それを掲げています。少子高齢化が進む成熟社会においては、これまでの製造業を中心とした産業構造ではもはや立ち行かなくなります。人々の価値観が多様化するなかで、スポーツの重要性がより増していくと考えています。

 私は今、DeNAのスポーツ事業部長、横浜スタジアム社長、横浜DeNAベイスターズ社長という3つの役職を兼ねています。さらにDeNAは、往年の名選手だった瀬古利彦氏が総監督を務めるランニングクラブを所有しています。本社は渋谷区の「渋谷ヒカリエ」にありますが、スポーツ関連事業の全ての拠点を横浜に移しつつあります。

 そうした中、DeNAが保有する様々なスポーツリソースを地域、すなわち横浜の“公共財”と位置づけ、それを生かして新しい街づくりや産業創出をしていく。それが「横浜スポーツタウン構想」です。横浜に根付き、横浜とともに歩む。そしてスポーツが人と街をつなぐ――。DeNAのスポーツ事業が「地域のソフトインフラ」になるのが、我々のビジョンです。

「横浜スポーツタウン構想」の全体像(図:YDB)
「横浜スポーツタウン構想」の全体像(図:YDB)
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 球団経営に参画してからの5年間は、黒字化を主眼に事業に取り組んできました。そのなかでも、横浜という地域に対する視点は失いませんでした。今後、我々はプロ野球球団の経営だけでなく、街づくりを通じて新しい事業を興していくことになります。

到来する2つのビッグイベント

 スポーツはもともと、フランス語で「気晴らし」という意味です。しかし、今の日本で言われているスポーツ産業の裾野は狭すぎると思います。それを拡充することを、スポーツ界の一員としてやっていきたい。スポーツを幅広く捉え、横浜スタジアムを観戦型スポーツの場だけでなく、体験型スポーツの場として楽しめるようにします。

 横浜DeNAベイスターズが「スポーツタウン構想」を展開する前提として、大きなイベントが2つ予定されています。1つは2020年の東京五輪で、野球・ソフトボールが横浜スタジアムで行われること。

 もう1つは、横浜スタジアムに隣接する横浜市庁舎が2020年に移転することです。横浜を変える大きな出来事が、2つも同時期に起きるのです。

 そうした中、横浜市やスポーツ庁・経済産業省、さらに様々なパートナー企業とともに、スポーツ産業の裾野を広げていきたい。そして横浜を基盤としたスポーツ産業のエコシステムを構築したい、と考えています。

横浜の「縦軸」ににぎわいをつくる

 「横浜スポーツタウン構想」の骨子はこうです。みなとみらいから山下公園に向かう港に沿った横軸に対し、日本大通りから横浜公園、横浜スタジアムに向かう「縦軸」で、スポーツを中心にさまざまな取り組みをしていくこと。2020年ごろには横浜市庁舎や横浜文化体育館が一新されます。ここでスポーツを切り口とした新たな活性化の軸を作ります。

 そうなると、羽田空港からわずか15分に位置するコンパクトシティーの横浜で、観光を含めたさまざまな取り組みができるようになります。

 まず今後は、横浜スタジアムを改修することを考えたい。横浜スタジアムは、プロ野球の12球団では2万9000人と収容人数が最も小さいからです*1

*1 横浜DeNAベイスターズは2017年3月15日、横浜スタジアムの観客席の増築・改修計画を横浜市に提出したことを発表した。市街地を一望できるデッキ席や個室観覧席などを新設することで、収納人数を約3万5000人に増やす。費用は約85億円。2020年春の完成を目指す。

 スタジアムを増築する際には、“閉じた球場”にするのではなく、先ほど述べた縦軸を作って活性化の中心拠点となるようにしていく。さらに横浜市庁舎の跡地の街づくりなどにも、積極的に参画していきます。

 現在は非日常のエンターテインメントとしてプロ野球球団の運営に携わっていますが、2020年を境に「日常の世界」にも取り組みを広げていきます。