2020年の商用開始に向け、国内における技術開発やトライアルの取り組みが活発になってきた5G(第5世代移動通信システム)。IoT(Internet of Things)など、4Gまでとは異なる要求にどのような技術で応えていくのか。日本の5G推進をけん引する第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)で技術委員長を務める大阪大学の三瓶教授に聞いた。(取材日は2016年11月1日)

(聞き手は加藤 雅浩=日経コミュニケーション編集長)

―4Gまでと5Gで最も大きく変わるところは。

三瓶 政一 Seiichi Sampei
三瓶 政一 Seiichi Sampei
1980年、東京工業大学工学部部卒。1982年、同大学大学院総合理工学系研究科修士課程修了、1991年工学博士取得。1982年、郵政省電波研究所(当時、現情報通信研究機構)入所。1991~1992年、カリフォルニア大学デービス校客員研究員。1993年、大阪大学工学部助教授。2004年、大阪大学大学院工学研究科教授(現任)。2014年、第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)技術委員会委員長。2015年、総務省 情報通信技術審議会 委員。学会関係では電子情報通信学会無線通信システム研究専門委員会委員長、関西支部長、編集理事、映像情報メディア学会副会長などを担当。

 5Gはユーザーが望む機能を提供する、いわゆるユーザー主導(ユーザーセントリックあるいはユーザーオリエンテッド)のネットワークになる。4Gまではその時々で最も高度な機能を一つのネットワークとして実現し、できるだけ広い分野で使ってもらおうというものだった。5Gでは、インダストリー4.0やIoT(Internet of Things)といった多様化するニーズに応えるために、様々な機能を提供していくことになるだろう。

―技術開発の優先順位も従来とは変わりそうか。4Gまではブロードバンド化にまい進していた。

 技術開発のターゲットとして、真っ先に挙げたいのが遅延(レイテンシー)である。5Gでは無線区間の遅延時間として1ミリ秒を目標としている。ただこれでも十分に短い遅延時間とは言えない。だからここがスタート地点になる。

 インダストリー4.0で言われているように、機械(制御システム)がネットワークにつながると、遅延が問題になる。それは制御する側の機器と制御される側の機器の間で、往復の通信が両方向で発生するからだ。無線の場合は基地局を介した上りと下りの通信になるから、電波が4回飛ぶことになる。つまり、4回分の遅延が発生することから、局所的な狭いエリアでの遅延制御メカニズムがどうしても必要になる。

―遅延以外での技術的な課題にはどのようなものがあるのか。

 いわゆる多数同時接続(マッシブコネクション)も解決すべき問題として挙がっている。今のネットワークはブロードバンド化によって、大容量のファイルが常に流れている状態にある。これに対し、多数同時接続では比較的小容量のデータが流れる。従来なら「小容量なら低速でかまわない」という認識だったが、5Gは違う。小容量のデータは遅延が長くなる。これを短くするためにはブロードバンド回線が必要になる。

―IoTでつながるデバイスの種類としてはセンサーが多くなりそうだ。

 センサーがネットワークにつながると、今の離散的センシングが連続的センシングに変わる。自動車を点検・修理するケースで言えば、今は点検で問題のある部品が見つかったら交換するという流れになっている。このとき、もし部品の在庫がないと発注した部品が届いてからの修理となるため、点検と修理の2回、自動車を預ける場合がある。

 センサーがネットワークにつながるようになれば、部品が劣化している状況や、その予兆が分かるようになる。そうすると自動車を預けるのは、修理の一回だけとなり、部品の在庫を抱えなくてすむ。これもインダストリー4.0の狙いの一つだ。

―5Gでもブロードバンド化は進む。その目的は。

 ブロードバンド化の目的は2つある。一つは大容量ファイルを一度に短時間で送るという用途。モバイル環境におけるダウンロードをさらに快適にするものだ。5Gで伝送速度が10Gビット/秒を超えると、映画1本(容量5GバイトのDVD)が数秒でダウロードできる。これなら例えば駅で電車を降りて改札口を通過するまでの間に、ダウンロードを済ませられる。4Gでは音楽コンテンツがせいぜいだった。もう一つは前述した遅延の短縮だ。そのためには伝送速度を速くするしかない。