データプレーンにプログラマビリティーを持たせるという、SDN(Software Defined Networking)やNFV(Network Functions Virtualization)の一歩先をいくアイデアをかねてから提唱し、様々な可能性を検証しているのが東京大学の中尾教授。IoT(Internet of Things)など最近の取り組みを聞いた。(取材日は2016年8月9日)

―少し前から機械学習を組み込んだ「考えるネットワーク」(Thinking Network)を提唱している。どのようなものか。

中尾 彰宏 Akihiro Nakao
中尾 彰宏 Akihiro Nakao
1991年、東京大学理学部卒。1994年、同大学大学院工学系研究科修士課程修了。同年、日本IBM入社。米IBMのテキサスオースチン研究所、日本IBM東京基礎研究所などを経て、米プリンストン大学大学院コンピュータサイエンス学科にて修士号および博士学位取得。2005年、東京大学大学院情報学環 助教授に就任。新世代ネットワーク研究センターネットワークアーキテクチャグループ 客員研究員。2007年4月から准教授。2007年から新世代ネットワーク推進フォーラム推進委員会委員、同フォーラムアセスメントワーキンググループ副主査兼任。2014年2月から教授(現職)。2014年から第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)ネットワーク委員会委員長兼任。

 SDNの3層モデル(アプリケーション、コントロールプレーン、データプレーン)で言えば、アプリケーションがネットワークの“頭脳”に相当する。ところが、パケットの転送を担うデータプレーンがこれまで通りだと、限られた考えしかできない。

 私が開発したプログラマブルスイッチ「FLARE」はデータプレーンを改変できる。ここに機械学習の機能を入れる。そしてこの機能を新しいサウスバンドAPI(Application Programming Interface)として公開する。こうすることでアプリケーションから機械学習の機能を使えるようにする。

 機械学習のほかにも、CCN(Contents Centric Network)やDPI(Deep Packet Inspection)、DTN(Delay/Disruption Tolerant Networking)などの実装にも取り組む。このように様々な機能を実装できるのは、FLAREが「スライス」と呼ぶ仮想領域を複数立ち上げ、各スライスで自由にプログラミングできるからだ。

 私の目的は、「エンドツーエンドでプログラマビリティーを実現する」ことにある。データプレーンをプログラミングできるチップも、米ベアフット・ネットワークなどから高いパフォーマンスのチップが出てきている。ただし現在手に入るチップはまだスライスに対応していない。スライサブルなデータプレーンを実装する必要がある。

―スライスと言えば5G(第5世代移動通信システム)で「ネットワークスライス」が注目されている。

 ネットワークスライスは、ネットワークの進化の過程で当然のように入ってくるものだ。問題は何でスライスを切るかにある。

 有力なのはアプリケーションごとにスライスを切るという考えだ。例えば自動運転車に向けた、超低遅延のネットワークスライスがあり得る。我々もクラウドから自動車を制御するための超低遅延の実験に取り組んでいる。このようなアプリケーションごとのネットワークスライスはMEC(モバイルエッジコンピューティング)も組み合わせて5Gの商用サービスに入っていくだろう。

 ただ、5Gに対する一般の期待はそれほど大きくないと感じている。これ以上お金を払いたくないと考える人が多いからだ。MVNO(仮想移動体通信事業者)の格安スマホがヒットしているのはその証しだろう。

 それなら「格安」というネットワークスライスがあり得るのではないか。5Gのネットワークスライスでそれを実現すれば、MVNOの延長として受け入れられるかもしれない。