―― 今後、日本代表の強化をどのように考えていますか?

川淵 代表としての練習期間、強化の日程がものすごく少ない。サッカー日本代表は年間スケジュールを見ても1カ月合宿するということは無理です。昨年のワールドカップで活躍したラグビー日本代表はエディ・ジョーンズの時に4カ月の合宿を4年間やったというんだから恐ろしいよね。あれぐらいやったら、間違いなく強くなります。

 バスケットボールは、今まで長い強化期間がとれる環境にあったにも関わらず、やっていなかった。サッカーに比べればシーズンオフも長いし、強化の期間はもっと設けられると思います。Bリーグになったことをきっかけに、トップパートナーとなったソフトバンクさんにも相当なお金を出していただいたので財政的にゆとりができました。日本代表をかなり強化していきたい。その際に、選手は言うに及ばず、チームに対しても手当は出すべきだと思ってます。

―― 現在、アメリカの大学でプレーしていますが、渡邊(雄太)選手などいい素材が出てきています。

川淵 そうなんだよ。八村(塁)も今度、アメリカの大学(米ゴンザガ大学)に入りますよね。トヨタの松井(啓十郎)なんかも、マイケル・ジョーダンが日本に引退試合に来た時、彼は小学生で、そういう時からバスケットボールをやりたいと夢を持っていました。お父さんがバスケをやるならアメリカに行かないとダメだといって、中学校くらいから英語を一生懸命勉強して、高校で向こうに渡って(モントローズ・クリスチャン高校)、米コロンビア大学に推薦で入っています。

 選手育成の1つの選択肢として、バスケットボール協会が、中学校・高校の選手をアメリカの大学に送り込むということをバックアップすべきだと思っています。『スラムダンク』の作者である井上(雄彦)さんが奨学金(「スラムダンク奨学金」)をつくってやってくれているんですよ。個人の奇特な漫画家がいて本当にありがたいことだが、協会としては、そういったルートをちゃんと設けて、しかるべき大学に推薦して入学できるようにサポートすべきです。そういったルートを見つけて、海外に行ける選手が少なくとも年間10人くらい出てくればいいなと思っています。

 アメリカは環境といい、指導者といい、競争相手といい、国内とはまるで違います。はっきり言って練習量も圧倒的に違います。日本人の練習量は少ない。女子は今度のオリンピックを見ても世界レベルだなと感じたのですが、女子の場合には高校を出て実業団に入るケースが多い。実業団はある種のプロみたいなもんだから、練習量はものすごく多いんです。男子の場合は、だいたい大学に進学します。僕らの時代と違って授業に出ないと単位をもらえないなど、今は結構うるさいんだよね(笑)。勉学との兼ね合いにおいて、大学スポーツをどう強化するかは大きな課題です。

川淵 三郎(かわぶち・さぶろう)
川淵 三郎(かわぶち・さぶろう)
日本バスケットボール協会 エグゼクティブアドバイザー。日本サッカー協会最高顧問。首都大学東京理事長。1936年大阪府生まれ。早稲田大学在学中に日本代表に選出。古河電気工業に入社後、1964年には東京五輪出場。1991年、Jリーグ初代チェアマンに就任。2015年5月に日本バスケットボール協会会長に就任。2016年に同協会会長を退任し、エグゼクティブアドバイザーに就任(写真:加藤 康)
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(後編に続く)

上野 直彦(うえの・なおひこ)/スポーツライター
上野 直彦(うえの・なおひこ)/スポーツライター 兵庫県生まれ。ロンドン在住の時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。女子サッカーやJリーグを長期取材している。

『Number』『AERA』『ZONE』『VOICE』などで執筆。テレビ・ラジオ番組にも出演。経済アプリ・NewsPicksでの“ビジネスはJリーグを救えるか?”が好評連載中。

Twitterアカウントは @Nao_Ueno