データはトップダウン志向で活用すべき

 ところで、プロスポーツ界においては「競技者と観戦者は別々の存在」であるという、暗黙の認識があります。確かにプロ野球においても、スタジアムに高校球児が観戦に訪れているかというと、「ほとんどいない」というデータがあります。

 ただ、Bリーグは「競技者と観戦者は別々の存在」ということに対して問題意識を持った方がいいと思っています。やはり、競技者にもBリーグを見に来てもらいたいですし、Bリーグを見に来ている人にもバスケットボールをプレーしてほしいんです。プロバスケットボール組織としては、その両者を同じ存在にすることが使命の一つだと思っています。

 そして最近のBリーグのデータを見ていると、だんだんと競技者と観戦者が少しずつ近づいてきているのです。既存のデータを見て「無理」と思うのではなく、しっかりとビジョンを持ち、仮説を立てて施策を打っていくことで状況を変えられることが見えてきました。

 データに関してはボトムアップで臨むのではなく、しっかりとしたビジョンを持って、そのビジョンの実現のためにデータを活用するトップダウン志向で物事を進めていくことが重要だと思っています。

権益を統合することで市場が拡大する

 今の話は、Bリーグのもう1つの事業方針である「代表、リーグ、クラブの権益の統合」にもつながってきます。プロ野球の場合、どうしても個々の球団の力が強いため、全体最適の話がなかなか進みません。もちろん個々の球団の努力は非常に大切ですが、そこで数%来場者数が上がったとしても全体から見たら微々たるもので、リーグ全体、業界全体への影響は大きいとは言えません。やはり、リーグなり協会なりがダイナミックに仕組みを変えていかないと、スポーツビジネスは変化していかないと考えています。

 それを実現したのがMLBです。MLBはあらゆる権益をリーグに集約することで効率化と利益拡大を果たし、この20年で大きく拡大していきました。

 そこからさらに一歩進み、リーグとクラブ、そして協会とも権益を統合しているのが米プロサッカーリーグの「MLS(メジャーリーグ・サッカー)」です。MLSは、例えば代表チームのスポンサーとリーグのスポンサーをまとめて集めることで、3年で3~5倍にも利益を拡大させたと聞いたことがあります。そのように、協会とリーグが一体となってビジネスをしていくことで、市場規模は大きくなっていくのです。今、BリーグもMLSと同様の形を目指して事業を推進しています。

 協会とリーグが一体となってビジネスをしていくということは、今までの日本スポーツ界ではありえないことでした。それは野球界にいたときから感じていたことですので、2015年にBリーグに入ることになったとき、思い切ってチャレンジしてみようと思いました。

 成功すれば他の競技団体にナレッジをシェアできますし、たとえ失敗しても、それはそれで日本のスポーツ界にとっては大きなナレッジになると考えていました。結果的には3億~5億円ほどだったリーグ収入は50億円に到達し、スポンサーの数も増えました。入場者数も200万人を超える結果となった。まだ1年目が終わったところに過ぎませんが、まずはうまく進めることができたと思っています。

 Bリーグはまだ立ち上がったばかりですが、10年でプロ野球(NPB)とプロサッカー(Jリーグ)に追いつき、追い越すことを目指しています。それは事業規模だけではなく、普及面でも強化面でもです。そのためには、少し厳しいくらいの高い目標を掲げて、各クラブとも連携していきながら進めていくことが大切だと考えています。

Bリーグが目指す「BUM(Basketball United Marketing)構想」。代表チームやリーグ、クラブの権益を統合し、バスケットボール市場を拡大していく
Bリーグが目指す「BUM(Basketball United Marketing)構想」。代表チームやリーグ、クラブの権益を統合し、バスケットボール市場を拡大していく
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