2016年に誕生した男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE(Bリーグ)」は、アリーナスポーツの新時代を切り拓いた。

 卓球やバトミントン、ハンドボール…2020年の東京五輪、またそれ以降にビジネス的にも成長が大きく期待されている競技にはアリーナスポーツが多い。その新時代の扉をこじ開けたのがBリーグだ。

 昨年の開幕前からリーグの「設計図」を描いた中心人物の1人、それが葦原一正氏である。その取り組みの中でも、リーグのデジタルマーケティング戦略などを担う企業「B.MARKETING(Bマーケティング)」の設立は、時代が経つにつれ、必ず評価されていくと筆者は信じている。

 米プロサッカーリーグ「MLS(メジャーリーグ・サッカー)」を長く取材してきた筆者にとっても大変興味深いBマーケティングの狙いは何なのか、どのように成長していくのか。Bリーグ誕生の根本的な問いへの回答も、葦原氏は明確に答えてくれた。

(聞き手は、上野 直彦=スポーツジャーナリスト)

Bリーグの葦原一正氏(写真:加藤 康)
Bリーグの葦原一正氏(写真:加藤 康)

理念やビジョンが大事

―― Bリーグでは、日本バスケットボール協会(JBA)やリーグが保有するさまざまなコンテンツなどの権利(ライツ)を1つにまとめ、パッケージ化して提供する「B.MARKETING(Bマーケティング)」という会社を立ち上げました。米プロバスケットボールリーグ「NBA」でもやっていない取り組みだと思いますが、この構想を作った経緯は。

葦原 北米のMLSのモデルに注目しました。MLSはライツをまとめて管理するようにした結果、3年間でスポンサー収入が3倍になり、放映権料が5倍になったと言われています。

 Bマーケティングではまず、スポンサーと放映権をきっちり業界全体で管理していきます。

 そして、次はデータ。我々の展開で特徴的なのは、顧客と競技者を統合して一元管理するデータベースがライツに入っていることです。現地で情報交換したわけではありませんが、恐らく、将来的にビジネスのメインになってくるのは、このデータベースでしょう。我々も、本丸はこのデータベースと思っていますので。数年後には、バスケットボールを「する人」と「見る人」をつなげることができるようになっていくのではないかと考えています。

―― さらに「観戦する人」から「バスケをする人」になってもらうことも。

葦原 そうなんです。リーグの思いは1つです。競技者としてプレーを楽しむ人が本物を見に来てほしいし、本物を見た人がバスケをプレーするようになってほしい。

 野球やサッカーでもそうだと思うのですが、プレーする人と見る人の重なりが小さいんですね。例えば、プロ野球の外野スタンドにいる応援団に元高校球児がいるかといえば、実際はそう多くはありません。マーケティング調査で分析すると、野球をガチでやっていた人と、ガチで応援する人は別々なんですよね。でも、私は本来、それは違うと思っているんです。

 私がいつも強く言っていることは、理念やビジョンが大事だということです。入場者数を増やして、収入を増やすことは大切ですが、それだけでは絶対にダメだと思います。収入増だけで割り切ると楽なんですが、それだと何のためにスポーツビジネスをやっているのか途中で分からなくなります。

 日本では、子どもの運動能力が落ちていると言われています。そのことを直視せず、ビジネスゲームで収入が上がったという“数字遊び”だけに終始しても意味がない。なぜスポーツ団体をやっているのか、というところからやらないといけない。とはいえ、口では簡単に言えますが、大変なんですけれども(笑)。