プレーする人と見る人をリンクできる

―― 具体的には、データベースを使ったどのような将来像を描いているのでしょうか。

葦原 「ゆりかごから墓場まで」というイメージです。小学校でミニバスケットボールをやる子どもは結構多い。私の娘も小学生ですけど、周囲ではみんなミニバスをやっています。確かに小学生のバスケ人口は多いのですが、土日に練習や試合があるとBリーグの試合を見に来られない。これは中学、高校でも同じです。しかも、多くの人は、だいたい高校生でバスケをやめてしまいます。

 その子たちにプロの選手を見に来てくださいと言ったら、多くの子どもたちは見に来てくれると思います。バスケをやめてしまった人たちがプロの試合を見たら、きっと楽しくなって自分も再びプレーしたいと思うようになる人も少なくないでしょう。余暇で社会人と混じってバスケをして、どんどん熱狂的になってきて、30歳代くらいになるとコアなファンとして真剣にBリーグの試合を見てくれるようになる。データベースを用いてきちんと働き掛けることで、プレーする人と見る人をリンクできるようになると思うんです。

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)

 ポイントは2つあります。1つは、今話したBtoC(消費者向け)の取り組みです。競技者とファンのデータを一元管理することで、競技者人口と観戦者人口を増やす。これによって、バスケ全体の事業規模を拡大できます。

 もう1つは、BtoB(企業向け)の観点の取り組みです。「見る人」と「やる人」のデータがたくさん集まれば、パートナー企業にとっては宝の山になる可能性があります。例えば、アパレル企業やスポーツジムにとってはヨダレが出るくらいに欲しい情報ではないでしょうか。統計的に分析し、さまざまな情報を提供できるようになると思っています。

 そして、最も着目しているのは競技者です。バスケの競技者は国内に約60万人います。それにプラスして、中学・高校までプレーしていて、卒業後に競技を辞めた人もいます。Bリーグのチケット販売サイトの会員のうち、半分以上は競技者か、元競技者で、バスケ経験者の比率がとても高い。調査で「バスケの試合を生で見てみたい」と答えた人は700万人いて、そのうち270万人が競技経験者でした。この比率は他のスポーツと比べても圧倒的に高いのです。

 バスケ経験者の比率が高いという点を最大限に活用した戦略立案は、とても重要と考えています。観戦者のデータベースをリーグ一括で管理する取り組みは、海外でもほとんど見られない大きな改革です。さらに60万人の競技者データもくっつけたいと思っています。とても大きな作業になりますが、それによってバスケを「する・見る」をつなぐ世界観が出来上がります。

―― Bマーケティングで協会とリーグのライツを一括管理するということは、バスケ日本代表を盛り上げる取り組みを含んでいるということですね。

葦原 その通りです。JBAとBリーグのスポンサーシップを一緒に売った方が、リーグにとってもスポンサーにとっても効果が高いと考えています。リーグ初年度は、リーグスポンサーからの収入が50億円程度と従来の10倍以上になりました。スポンサー様の反応を見ていると、JBAにも興味を持つ企業が結構多いんです。

 ただ、現状の日本代表は事業収入が低く、まだテレビ放送の枠にもあまり入れてもらえていない状況です。競技力を高めることに加えて、事業面の取り組みにも力を入れていかなければなりません。以前は、シーズン終了後に少し集まって活動するような状態でしたが、代表として常設することで強化していければいいと思います。2020年には東京五輪もありますから。

 例えば、Bリーグが始まる前年のJBAの年間予算は約15億円で、収入の半分弱が選手やチームの登録費でした。ちなみに日本サッカー協会(JFA)の年間予算は約180億円でした。このうち、サッカー日本代表の事業は80~100億円強ではないかと予想しています。バスケの日本代表は事業規模が、その10%にも満たないのが現状です。競技者数から考えると、もっと日本代表の事業が拡大してもいいはずです。やはり日本代表が盛り上がらないとリーグも盛り上がりません。そういった意味で、日本代表に関する事業面での改革は抜本的に進めていかなければならないのです。

 サッカーでも協会とリーグで日程の調整に苦心していますけれど、各チームが善意で日本代表選手を送り出す枠組みでは、やはりつらいと思います。協会が日本代表で収益を上げたら、リーグやチームにも配分したい。それがないと「大切な選手を、なぜ代表に出さなければならないんだ」という声が出てきてしまいます。都道府県の協会にも収益を回せるようにしたい。というか、やるべきだと私は思っています。

 昨シーズン、リーグは想定よりも収入が増えたので、次は協会の収入を上げて、バスケ界全体のお金の流れ良くしないといけない。日本代表は、協会の収入の柱になるべきですね。