世界で本格的に原子力開発が始まってからおよそ70年になる。世界では、多くの原子力施設が廃止措置となり、閉鎖管理や解体撤去されてきた。その中でこれまでに苛酷炉心損傷事故を起こした商業用原子炉としては、スリーマイル島原発2号機、チェルノブイリ原発4号機、福島第一原発1-3号機がある。

 通常停止した原発の廃止措置については、複数の研究機関の評価や解体撤去実施例から、解体撤去に関する技術と費用、期間などが比較的良く分かっている。しかし、苛酷炉心損傷事故炉の解体撤去例は世界中のどこにも存在しない。福島第一原発1-3号機の解体撤去が、世界初の事例となる。

 ご存じのように、いま日本では通常停止炉と苛酷炉心損傷事故炉の解体撤去が進められている。前者は、東海原発(黒鉛炉)、「ふげん」(重水炉)、浜岡原発1、2号機(軽水炉)、福島第一原発4~6号機であり、後者はもちろん福島第一原発1~3号機(軽水炉)である。

 現在、それらの炉の解体撤去・廃炉に向けた政治的・技術的組織が設置され、確実で効率的な作業が実施できるような環境構築がなされている。浜岡原発や福島第一原発の例では、技術や経験を国際的に共有するため、複数の国際廃炉センターが設置されている。解体撤去の実施に当たり、国家的視点から、廃炉推進組織を構造化すれば、下図のようになる。

図 国家的視点からの廃炉推進組織の構造化
図 国家的視点からの廃炉推進組織の構造化
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 しかし、過去に苛酷炉心損傷事故炉の解体撤去例がないため、確実な技術・費用・期間の推定は簡単でない。全ては暗中模索・試行錯誤の状態にあると言える。いくぶん厳しい見方をすれば、完了までには半世紀を要し、費用も建設費並みにかかるだろう。まだ、スタートラインに立ったばかりであり、これから本格するな廃炉作業は、大きな不確実性の中にある。