前回は、東京電力(東電)の資料を基に、原子力技術者について考察した。今回は、事故調査報告書の抱える問題点を指摘するとともに、報告書の内容を基に、政府や東電、原子力学会などの事故後の対応の妥当性について考察する。

学会事故調、生かされていない専門家の能力

 日本原子力学会は、事故後「福島第一原子力発電所事に関する事故調査委員会」(以下、学会事故調)を組織。調査報告をまとめた報告書を2014年3月に出版している[1]。まずは、同報告書(学会事故調報告書)を見てみよう*1

 筆者が同報告書の大きな問題と考えている点に、学会の専門家が有しているはずの能力を十分に生かしていないことがある。東電が未検討の未解決問題(2号機格納容器プール上部空間の損傷原因、1~4号機格納容器プール壁損傷原因と時期、1~4号機原子炉建屋・タービン建屋への地下水流入の原因と経路、苛酷炉心損傷事故計算コードシステムMAAPの信頼性と従来解釈の妥当性など)については、他の事故調と同様に触れておらず、東電事故調報告書などの記載内容の再検討にとどまっている。実験や計算などを通してもっとできることがあるはずだ。

 唯一、実施した手計算は、専門家でなくても知っているボイル-シャルルの法則を適用して、1号機原子炉格納容器の既知量の温度(T1/T2)から圧力(P1)を推定(測定値8.1kPaに対して計算値8.5kPa)したことくらいである([1]のp.191、以下ページ数は学会事故調報告書の参照元)。

参考文献
[1]福島第一原子力発電所事故に関する事故調査委員会、『福島第一原子力発電所事故 その全貌と明日に向けた提言 学会事故調 最終報告書』、丸善出版、2014年3月11日
*1 同委員会は、東京大学教授の田中知氏を委員長とし、主に学会各部会から選出された委員50人で構成されている(pp.407-409)。