UASF運動はSegWit有効化を掲げたストライキ

 同じ時期に、開発者の一部も実力行使に踏み切った。マイナーの反対によりSegWitが有効化されない問題の解決策として、記事の冒頭で触れたUASFが登場した。ある開発者がビットコインへの機能改善案「BIP148(Mandatory activation of segwit deployment)」として提案し、この機能を備えたクライアントソフトウエアを公開する形で準備が進んだ。UASFに賛同する有志がこのソフトウエアをコンピュータ上で動かして「UASFノード」として公開する運動が広がった。7月の段階でこのようなUASFノードが1000個以上もネットワーク上に出現していた。

 UASFの動作はシンプルだが引き起こす結果は強力だ。2017年8月1日までにビットコインのネットワークでSegWitを有効化しなければ、ネットワーク上に多数動いているUASF対応ノードが非SegWitブロックを拒否し、SegWit賛成派のノードと反対派のノードがそれぞれ敵対的な形で並立するソフトフォークが長時間続く(こちらにあるように、「賛否両論フォーク」と呼ぶ場合もある)。このような不安定なソフトフォークでは、ビットコインのネットワーク上の取引(送金など)が例えば何十時間も経過した後にブロックチェーンの再編成(Reorg)により取り消される懸念がある。

 UASFとは、例えるならストライキやデモ行進のような実力行使に相当する。そのメッセージは「SegWitを有効化せよ。それが受け入れられないなら、ビットコインは機能不全に陥る」というものだ。

 UASFは特定の司令部のような存在を持たず、有志がそれぞれ自分の意思でUASFノードを立ち上げることで機能する。誰か特定の人物と交渉して中止させることは不可能だ。純粋なP2P(Pure Peer-to-Peer)、あるいは非中央集権(decentralized)というビットコインの技術的な特徴を活用した策といえる。

 ここで注意したいことは、UASFは「必ずしもビットコインの開発者コミュニティの総意ではなく、有志の活動である」ことだ。「UASFが開発者の総意であるなら、Bitcoin Coreの仕様にマージされているはずだが、そうはなっていない」とbitFlyer代表取締役の加納裕三氏は指摘する。

 UASFは状況を動かす上で大きな役割を果たした。ビットコインの産業界(ビットコイン関連ビジネスを手がける米国スタートアップ企業各社や中国の主要マイナー各社ら)は、UASF回避のためにSegWit仕様を有効化するように歩調を合わせて動いたからである。UASFの登場後に事態がどう進んだのかは、後編で詳しく述べる。