日経エレクトロニクス2014年9月1日号のpp.96-101「設置の容易さや電池の交換時期の保証が重要に」を分割転載した前編です。

工場や発電所、交通、農業などさまざまな分野で、現場の状態を常に監視し管理や制御に応用するために、無線センサーネットワークへの期待が大きい。ただし、信頼性の高いネットワークを構築するには、センサーネットならではの要求仕様を理解し、構築の勘所を学ぶ必要がある。信頼性の高いネットワークを構築するには、センサーネットならではの要求仕様を理解し、構築の勘所を学ぶ必要がある。今回は、米国で普及が進むスマートパーキングシステムを事例に挙げて解説する。

 本連載の第1回と第2回は、信頼性の高い無線センサーネットワークを構築するための標準仕様について解説した。発電所や化学プラントなど、センサーの測定データを失うこと(欠測)が許されない用途には、「WirelessHART」規格や「IEEE802.15.4e」規格が規定するTSCH(Time Slotted Channel Hopping)方式が適している。この技術の適用分野は、データ転送用や給電用のケーブルを配線せず、電池だけで数年間にわたってセンサーデータを収集したい全ての分野にわたる。老朽インフラの振動モニタリング、IT農業の環境モニタリング、iBeaconとの併用による資産位置管理など、幅広い用途に活用できる。

iBeacon=米Apple社が2013年9月に公開した携帯機器向けOS「iOS7」に搭載した新機能。対応機器は、Bluetoothの省電力規格「Bluetooth Low Energy(BLE)」の仕組みを使って周囲にIDを発信し、このIDを受け取ったスマートフォンなどのアプリケーションソフトウエア(アプリ)が、IDに応じた動作を実行する。

 TSCH方式の発端は米University of California, Berkeley校のKris Pister教授の「SmartDust」構想に遡る。このビジョンに賛同したDARPA(米国防高等研究計画局)や投資家の援助によりDust Networks社という企業が立ち上がり、無線センサーネットワークを構成するチップの製品化にこぎつけた。

 これらのチップには、既に30億デバイス時間を超える利用実績がある。今回もDust社の製品を使ったネットワークの実用例を取り上げ、無線センサーネットワークが満たすべき条件と、その実現手法を詳しく解説する。