工場や発電所、交通、農業などさまざまな分野で、現場の状態を常に監視し管理や制御に応用するために、無線センサーネットワークへの期待が大きい。ただし、信頼性の高いネットワークを構築するには、センサーネットならではの要求仕様を理解し、構築の勘所を学ぶ必要がある。今回は、接続の信頼性と低い消費電力を両立する条件を検討する。
今回は、Dust Networks社が開発したTSCH方式がどのようにして通信の信頼性を高めつつ低消費電力を実現できるのかを、他方式との比較で説明する。無線センサーネットワークでは1つひとつのノード間の伝送経路は信頼性に欠けることが多く、TSCH方式は周波数、空間、時間という3つの次元の冗長性(redundancy)を十分に活用することで、最終的に信頼性の高い通信に組み立てる仕組みと言える。
TSCH方式は、OSI(開放型システム間相互接続)参照モデル第2層目のMAC層に実装されている。この方式を用いるSmartMesh IPでも、物理層はZigBeeなどと同じである。いずれもIEEE802.15.4を使っており、2.4GHz帯を使う場合、83.5MHz幅のバンド内にチャネル幅5MHzの16個のチャネルがあり、DSSS(Direct Sequence Spread Spectrum)変調方式を採用し、250kビット/秒のデータ転送速度を実現するといった仕様は変わらない。これに対しMAC層では、ZigBeeがIEEE802.15.4を使うのに対し、SmartMesh IPはIEEE802.15.4eを用いている注1)。
両規格の大きな違いは、IEEE802.15.4ではネットワークを構成するノード間で共有する時計の概念がなく非同期で通信するのに対して、IEEE802.15.4eでは全てのノードが正確な時計を持ち共通の時刻を共有して同期通信を実行することにある。この結果、メディアアクセス制御方式としてIEEE802.15.4はCSMA/CA方式、IEEE802.15.4eは時分割多重(TDMA:Time Division Multiple Access)方式を使っている。通信の信頼性の高さと、各ノードの消費電力の低さを両立しようと思うと、前者よりも後者の方が有利である。