現行のオイルサンド開発事業計画に基づいて、今後の生産予測をしてみたい。

 オイルサンド資源自体は豊富にあるため、投資が決まれば、その事業の開発時期と規模に基づいて、将来の生産開始時期と生産量を予測できる。開発事業の過去の実績や将来計画は、IHSやノルウェー・リスタッドエナジー(Rystad Energy)などのコンサル企業やエンジニアリング企業が把握している。

 2000年以降の投資額の推移を図3に示す。2014年までの10年余は平均してかなり高額の投資が続けられていた。ところが、2015年以降は投資額が急減している。2014年末の油価暴落が影響したと見られる。

 図3は、2019年までは、過去に承認され、現在継続中の事業に対して資金が投入されるが、新規の事業計画が生まれない限り、2020年以降はオイルサンド開発に対して新規に資金が投入されないことを示している。

 もちろん、2019年までに資金を投入した事業には生産が継続されるものもあるから、オイルサンドの生産が急激に減少することはない。また、2019年までに開始された事業からある程度の増産も期待できる。2020年代の半ばまでは増産されることになると推定されている。だが、それ以降、生産量が増加することはない。

2015年以降は開発投資が激減
2015年以降は開発投資が激減
図3●新規のオイルサンド開発事業への投資額推移(出所:リスタッドエナジー)
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世界の石油減退が加速

 オイルサンドの生産量の予測図(IEA予測など)に筆者が加筆したものを図4に示す。カナダ石油生産者協会(CAPP)は2006年の生産計画を2015年には大幅に下方修正した。IEAの2015年の予測は、CAPPの計画よりさらに下方修正したものになっている。

下降線たどる生産量の見込み
下降線たどる生産量の見込み
図4●将来のオイルサンド生産予測(出所:CAPP、IEA、米ボールド・アライアンス)
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 ネブラスカ州やアイオワ州などの農村部を拠点に環境保護活動を展開する米ボールド・アライアンス(Bold Alliance)によれば、オイルサンドの生産は2025年ごろにピークに達し、それ以降は稼働中の事業の自然衰退により生産の減少が継続することになる。

 オイルサンドは資源量そのものは多いことを考慮すると、2025年以降も生産量は漸減しながら、生産を継続することは可能だろう。しかし、トルドー首相の発言もあり、CO2削減の環境制約を考慮して2050年頃に向けてオイルサンド事業そのものを縮小させる施策が進められる可能性もある。

 IEAやCAPPのオイルサンド生産予測は、2040年には日量450万バレルを超えると予測していた。しかし、ここで示した分析によれば、2025年ころに300万バレル程度で生産ピークに達し、その後は確実に減少することが予測される。

 2016年版の「世界エネルギー展望」(WEO2016)は、「2040年には世界の石油生産は現状から7割減」と予測している(「採算性低下が原因で、石油生産は減衰する」参照)。

 しかし、この予測を発表した時点では、カナダのオイルサンドの生産減少は織り込まれていない。それどころか、増産を予測していた。オイルサンドの現状を考慮すれば、2040年の世界の石油は、さらなる減退を覚悟しなければならない。

中田 雅彦(なかだ・まさひこ) 石油経済研究会
1941年生まれ。東京工業大学大学院修士課程(機械工学専攻)修了後、トヨタ自動車に入社。第3エンジン技術部部長などを歴任。工学博士(東工大)。定年退職後、トヨタグループの技術系シンクタンクであるテクノバで自動車燃料やエネルギーに関する調査研究に2016年3月まで従事した。