2000年から2012年にかけて、投資額は5倍に増えたのに、2012年の原油生産量は2000年とほぼ同程度である。その結果として、2011年後半以降から石油会社の収入は低迷し、配当金や開発投資金などを確保するために、借り入れを増やしたり、資産を売却せざるを得なくなった。石油会社の財務体質の悪化は2014年の油価暴落前から始まり、開発のための投資が減少し始めていた。

 そして、追い打ちをかけたのが2014年からの油価暴落だった。

 現在稼動中の油田における在来型原油の生産コストは1バレル10~45ドルである。油価が同60ドル以下では、シェールオイルやオイルサンドは、採算が取れないケースが増える。中東の近海油田は採算が取れるが、海底油田の大半は見合わない。同30~40ドルの油価が長期化すれば、稼働中の油田の生産は継続されるものの、新規の油田開発は停滞し、数年後には石油生産が減少する可能性が高い。

ブラジル沖合の海底油田に異変

 その兆候はすでに顕在化し始めている。

 ノルウェーの石油・ガス関連のコンサルタント会社であるリスタッドエナジー(Rystad Energy)がまとめたデータによると、東南アジアやメキシコ湾、ブラジル沖合の海底油田における追加掘削に対する開発投資が、2015年(油価暴落後)には大幅に減少している。同年上半期だけでも前年比60%減となっている。現時点ではさらに減少している可能性がある。

 同社はこの60%の投資減少の影響だけでも、これら3地域の海底油田の生産は2015年の日量1500万バレルから、2016年には同1350万バレルに減少すると予測している。なお、図1から分るように現在の世界の在来型原油の生産量はおおよそ同7000万バレルである。

 エネルギー分野に強い調査・コンサルティング会社、英ウッドマッケンジー(Wood Mackenzie)の最新情報では、日量290万バレルに相当する事業が2020年代までに停止すると予測している。

 スイスUBSのリポートによれば、油価の低迷による開発の縮小で、日量400万バレルの生産が消滅し、回復が困難な状況になっている。2020年までに供給危機が発生すると警告している。

 英イングランド銀行も「かつて石油会社は投資額の80%を確認埋蔵量の維持に費やしてきたが、2015~16年の規模は投資額の50%に減少した。この規模の投資では今後利用できる埋蔵量が減少し、生産が急減する」と警鐘を鳴らす。

 油価暴落以前から始まっていた石油会社の開発事業の縮小や撤退が油価暴落後に一層加速することになり、将来の石油生産能力を低下をさせた。既に近い将来の生産量の具体的な減少が指摘され始めている。原油の地下からの回収が、採算性の限界に近づいていると言える。