しかし、これらを現実の“生産量”に転化するには、ばく大な投資が必要になる。国際エネルギー機関(IEA)は、それを満たすだけの十分な投資が行われていないと警告している。原油安が長期化し、石油生産の採算性が高まらなければ、この問題はさらに深刻化する。

 IEAは2012年、「世界エネルギー展望(World Energy Outlook)」で、2035年に向けた世界の原油生産予測を行っている。

 それによると、在来型の原油生産は2005年の日量7000万バレルでピークを迎え、以後、徐々に減少し、2035年には半減してしまう。

2020年以降、石油価格は反騰

 そこで、あえて今後の議論のたたき台として、原油安がもたらす長期シナリオを描いてみたい。

(1)2017年頃まで経済は停滞し、石油需要も低迷することから、1バレル40ドル台での油価低迷が続く。この間、開発投資が減少すると同時に、在来型原油の埋蔵量は着実に減少する。

(2)2020年以降、石油需給ひっ迫と埋蔵量減少が顕在化し、原油価格は1バレル70~80ドル台に反騰。主要消費国間で石油争奪戦が激化する。同時に、先進国では脱石油に向けた取り組みが進む。

(3)2030年以降、主要産油国の原油埋蔵量危機が表面化し、協調減産や引き上げの動きが活発化する。原油価格は1バレル90~100ドル台に急騰し、世界経済は停滞する。

(4)長期的には、再生可能ネルギーの利用拡大、IoT(モノのインターネット化)による省エネ管理が進展し、脱石油文明に向けた動きが加速する。なお、原油、鉱物、農業などの一次産業は、有限資源としての希少性、重要性が高まると予見される。

 以上のシナリオを視覚化したのが下の図である。

「脱石油」が経済成長の持続に欠かせない
「脱石油」が経済成長の持続に欠かせない
石油と経済を巡るトレンド
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 資本主義経済は安価な石油に支えられて発展してきた。しかし、ここで示す分析結果は原油価格の急上昇が引き金となり、このままではこれ以上の経済発展が見込みにくい新たな時代に突入することを示唆している。

 石油経済研究会のメンバーは、気候変動問題がなくても原油資源自体の制約により、将来的には脱石油に向かわねばならないという共通の思いを抱いている。具体的な脱石油へのアプローチについては、ここで提示した問題意識をたたき台として、それぞれ専門領域を異にする他のメンバーに引き継いでいきたい。

 連載では、将来の石油供給不足懸念、非在来型原油の課題、エネルギー収支比の重要性、石油と経済の関わり、再生可能エネルギーに依存する電力供給の課題、石油文明の限界、2050年の社会と交通などについて話題を展開していく予定だ。