皇太子交代に見るサウジアラビアの危うさ

 将来的な不安もある。サウジでは7月にサルマン国王(81歳)が、おいのナエフ皇太子(57歳)を解任し、息子のムハンマド副皇太子(31歳)を新たな皇太子に任命した。

 国防、経済、外交を兼務する若き皇太子の誕生は、王位継承順位1位になることで、さらに権力の集中が進む。2015年にイエメン内戦に軍事介入し、2016年にはイランと国交断絶、そして今回のカタールとの国交断絶など、その強権的な政策は中東情勢を一段と不安定化させた。それだけでなく、サウジ国内でも不満をくすぶらせることになる。特に経済面で、新皇太子が「ビジョン2030」で掲げる脱石油の経済改革がつまずくことになれば、不満は一気に表面化しかねない。

 ここにきてのサウジを中心とするOPECの8年ぶりの協調減産に対し、米シェールオイルの生産回復という構図をみると、当初の「増産を続け、シェールオイル生産企業を潰す」というサウジの思惑は外れた格好になったと言えよう。

 確かに米国では、これまでシェール関連で、WBHエナジーやサムソン・リソーシズなど数十社が経営破綻したものの、3000~4000社といわれる米シェール関連企業全体における破綻は限られたものだ。

なぜ、改革急ぐ

 一方、サウジは2016年4月末に「ビジョン2030」で、石油依存型の経済から脱却し、投資や観光、製造業、物流など経済の多角化を目指すと宣言した。その柱は、国営サウジアラムコ(企業価値2兆ドル超)株を新規公開(IPO)で売り出し(5%未満)、自国市場に上場すると表明したことだ。

 改革を急ぐ背景に何があるのか。筆者のこの素朴な疑問は、埋蔵量にある。

 スーパーメジャー、英BPの統計によると、サウジの原油埋蔵量は2600億バレル台でこの30年間変わっていない。これに対して生産量は日量1000万バレル前後で推移している。

 30年間でざっと1000億バレル(1000万バレル×365日×30年)以上が消費され、埋蔵量は減っていないというのは不思議な話だ。サウジの埋蔵量が2600億バレル台のまま変わっていないことをどう理解したらよいのか。「埋蔵量の減少」という真実が隠されているのか(その場合、事実が分かった段階で原油は急騰)。それとも本当は公表以上の埋蔵量を有しているのか。もし、前者であったなら、サウジがなぜ経済改革を急ぐのかもうなずける。

 とはいえ、現在の原油安が長期化するとの見方もできない。確かに足元の原油市場は、高水準の生産、歴史的に積み上がった世界在庫、弱い需要の伸びなど、供給過剰感が払拭できない。しかし、原油市場を「埋蔵量の減少」という視点から眺めてみると、違った絵が見えてくる。

 今後、NGL(天然ガス液)やオイルサンド、シェールオイルなどの非在来型石油の増産が期待される。しかし、それだけでは経済発展に必要な需要は満たせない。「未開発、未発見」の在来型油田からの増産が必要である。