20世紀は「石油の世紀」と言われた。だが、21世紀に入り、石油の地位が揺らぎ始めている。2008年から始まった原油価格高騰から2014年の暴落、そして2016年の価格低迷・・・。かつてない乱高下は何を物語り、今後どのような影響を及ぼすのか。
 連載「脱オイルの世紀」では、民間の有志による研究グループの石油経済研究会が、石油と経済の未来を展望する。シリーズ第1回目は研究会のメンバーで、原油市場を長年ウォッチしてきた柴田明夫 資源・食糧問題研究所代表(元丸紅経済研究所代表)が、石油生産への新規投資の減少や埋蔵量減少の顕在化がいずれ油価高騰を招き、中長期では経済が停滞する恐れを指摘する。

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 2014年秋を境に世界経済においては、不安定という言葉では表わし切れない事態が次々と起きている。

 きっかけは原油価格の急落だが、いくつかの布石があった。中国経済の減速、欧州ギリシャ債務問題、ロシアのウクライナ侵攻、中東シリア内戦とイスラム教過激派IS(イスラム国)の台頭、米国FRB(連邦準備制度理事会)による金融政策正常化(量的緩和の停止と金利引き上げ)、そしてトランプ政権の誕生などである。散らばっていた不安定化の火種が原油価格の急落によって相互に連鎖し始めた。

 2014年前半まで1バレル90~100ドル前後で推移していたWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は、2014年末には50ドルを割り込み半値となった。それでも下げ止まらず、2016年には30ドルをも割り込み、およそ13年ぶりの安値に落ち込んだ。

それでも、石油市場は供給不足に陥る

 著書『石油の世紀』で知られるダニエル・ヤーギン氏は、当時、原油価格急落を巡って、①50%もの下落にもかかわらず景気刺激効果が生じなかった、②地政学リスクが高まっているにもかかわらず、原油価格の高騰につながらなかったことを「2つの謎」と指摘した。ヤーギン氏は「原油市場が構造的な供給過剰に陥った」ことが根底にあると見ているようであった。

 果たして、そうだろうか。確かに、足元のフロー(生産量)の動きを見たとき、世界の石油市場はシェールオイルの増産により、構造的な供給過剰にある。しかし、2020年以降のストック(埋蔵量)の長期的な動向を見たとき、市場は埋蔵量不足や供給不足といった事態に陥る可能性が高い――。というのが、筆者ら石油経済研究会の分析である。