シリコンバレーは特異な地域だという認識は、多くの読者が持っておられると思う。実は、米国の中でも、シリコンバレーは十分に特異な地域である。以下、米Joint Venture Silicon Valleyのレポート2016 Silicon Valley Indexの統計値を引用しながら、シリコンバレーの特異性をみていく。特に、この地域の非常に高い個人の生産性は、注目すべき点である。

 なお一般にシリコンバレーとは、サンタクララ郡(カウンティー)、サンマテオ郡、アラメダ郡、サンタクルーズ郡を指す。簡単にいえば、サンフランシスコ市以外のベイエリアの大部分を意味する。ざっと計算すると、東京都と神奈川県を足した程度の広さである。地勢的には、かなりの部分が低い山地で、人の住む平地は限られている。

図1●個人年収の分布 
図1●個人年収の分布 
米Census BreauのCurrent Population Surveyおよび国税庁の『民間給与実態統計調査』のデータを基に筆者が作図。

 まず、個人の年収を取り上げる。日本での年収格差と米国での格差を比べて見る。図1に米国と日本の年収の分布を示した。日本と米国での格差の違いを荒く理解する目的で、乱暴であるが1ドル=100円という為替レートを仮定する。図1のグラフの形から、日本の分布が米国の分布に比べてシャープなことが分かる。最高収入と最低収入の双方で、日本よりも米国の方が割合が多い。一方で最頻値の割合は日本の方が大きい。米国の方が個人収入の格差が大きいことが分かる。

 米国の分布は全体に低収入層の割合が大きい。経済的に失敗してしまうと、奈落の底に落ちてしまう思いを抱かせるようなデータだ。2016年の大統領選挙でも話題となった、より富裕な層がより多くの富を独占するという、大きな格差を生む収入構造である。なお両国分布の中央値を比較すると、日本の方が高額に見える。が、これは為替レートによって、かなり変わってしまうため、あまり意味のない比較である。ここでは、米国での経済格差は日本での格差よりはるかに大きいという認識を持っていただければ十分だ。

図2●米国の世帯別年収(2014年)の比率
図2●米国の世帯別年収(2014年)の比率
米Joint Venture Silicon Valleyの2016 Silicon Valley Indexの"Distribution of Household by Income Ranges"のデータから筆者が作図。
*シリコンバレーはサンタクララ郡とサンマテオ郡のデータ。

 次に、米国平均とシリコンバレー中心地の世帯年収を比べてみる(図2)。シリコンバレー中心地とは、サンタクララ郡(カウンティー)とサンマテオ郡を表す。年収15万米ドル(1米ドル≒100円とすると、1500万円)以上の世帯が、シリコンバレー中心地では米国平均の3倍近くある。シリコンバレーの中心地を歩くと、3件に1件の家は、年収が15万米ドル以上ということになる。

 また、シリコンバレー中心地での個人収入の中央値は7万9108米ドルで、米国全体の中央値は5万3657米ドルである。典型的な就業年齢である25~64歳の人口比を比べてみると、シリコンバレーの中心地では人口の56%がこの範囲に入り、米国全体の52%と大差はない。言い換えれば、シリコンバレー中心地では、働いている人の年齢層は米国の平均と同じだが、収入は米国平均を大幅に上回っている。なぜこんなに差があるのか。やましいことで、金儲けをしているのかと勘繰りたくなる。