シリコンバレーでは起業家の話題が先行しがちだが、起業後の会社で多数を占めるのはサラリーマンとして働く技術者である。専門家としてのキャリアーアップ同様、生活(ライフサイクル)は、人生の一大要素だ。ライフサイクル中の大きなマイルストーンの1つが出産、子育て、その後の住宅購入だ。今回はこれに焦点を合わせよう。

厳しい"お受験戦争"

 格差が大きい米国では、同じような階層同士の結婚が多い。例えば、私の職場の回りでは、Ph.D.同士とか高学歴者同士の結婚が目立つ。いわゆる、キャリアーアップ志向の強いもの同士のカップルだ。結婚、出産、子育て、住宅購入と人生のマイルストーンが続いていく。もちろん、人によりマイルストーンの順番は異なる。女性従業員の出産前後には、企業はマタニティーリーブという、6か月から12か月程度の出産休暇を用意して、彼女のポジションを保障する。しかし、第一線の女性技術者、女性マネジャーたちの中には、出産休暇の期限よりも前に仕事に復帰してくる人たちがいる。

 早期復帰の理由の1つには、配偶者も含めた収入が高いため、ナニー(乳母)を雇えることがある。が、キャリアーアップへの強い志向が心理的プレッシャーとなり、早期の職場復帰をしようと考えるのは、明らかだ。私が知っている最短のケースは、出産1か月後の職場復帰だった。ミネソタ州にいたころのケースで(編集部注:筆者は以前、ミネソタ州で働いていた。現在はシリコンバレーの企業に勤めている)、彼女のポジションはマーケテイングのVPであった。この人は、出産1週間前まで(ひょっとしたら2~3日前まで?)大きなおなかを抱えてオフィスで仕事をしていたと筆者は記憶している。

 こうしたカップルは手分けをして子育てに奔走する、よきパパ、ママたちになる。よきパパとママにとって、教育費の高さと、生活の安定は難しい問題である。高学歴同士の親としては、どうしても、子供に自分と同じレベル以上の教育を願う。このため、シリコンバレー版のお受験戦争が起こる。現在の米国において、名門校をめぐる受験戦争は、けっして生易しいものではない。受験戦争は全米に存在するが、シリコンバレーではいささか深刻度が高い。

 いわゆる進学校に子供を入れるため、教育環境のよい地域に人気が集中する。このような地域では、住宅の価格が高止まりしてしまう。これは、いわゆる住宅バブルとは異なる次元の話である。シリコンバレーではクパチーノ、パロアルトなどの地域では、住宅価格が飛びぬけて高い。その理由は、住環境のよさと、教育環境の良さである。親は、子供のために、無理をしてでも、これらの地域で長い年月を過ごそうとする。このような地域に家を求めるパパ、ママたちは、週末に子ずれで、ハウスハンティングに精を出す。彼ら彼女らが満足するレベルの住宅の価格帯はおおむね70万米ドル~100万米ドル強(約1億円前後)の物件である。